研究課題/領域番号 |
17H04684
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
竹村 浩昌 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳機能解析研究室, 研究員 (50631313)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 白質 / 拡散強調MRI / 定量的MRI / 誘発脳磁場 / ミエリン |
研究実績の概要 |
MEGデータの再現性の検討を進め、MEG計測の再現性が高い視覚刺激呈示条件において視覚誘発脳磁場のピーク潜時の被験者間分散の2割強が視放線のMRIデータから予測できることが明らかになった。この結果は現在論文として投稿中である。また、MRI計測から得られる視放線の構造指標と、MEG計測から得られる後頭葉のアルファ波の特性の間に相関関係が見られるという知見を得たため、eNeuro誌に原著論文として報告した。
視放線における構造指標の基盤を明らかにするため、東京慈恵会医科大学・玉川大学との研究協力により、レバー遺伝性視神経症症例における視放線の特性を拡散強調MRIおよび定量的MRIを用いて分析する研究を実施した。その結果、拡散異方性(Fractional Anisotropy)と呼ばれる指標は疾患群における視放線の変化を検出するのに対して、定量的T1指標においては疾患群の視放線はコントロール群とほぼ同じ傾向を示した。このことから、視放線において拡散異方性と定量的T1指標はそれぞれ異なる微細構造変化を反映していることが明らかになった。この成果はNeuroImage: Clinical誌より原著論文として出版された。
頭頂葉と側頭葉を結ぶ白質線維束に関する研究がBrain Structure and Function誌より原著論文として出版された。平成31年度の国際会議(Organization for Human Brain Mapping)において、拡散強調MRIを用いた研究の先端に関するシンポジウムを主催し、自らも登壇して発表を行うことで今後の研究分野の発展について聴衆と議論を行った。ヒトを対象として計測された実験データを基にした研究発表にあたっては、プライバシー保護の観点から実験参加者を特定できる個人情報が資料上に現れないようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成31年度は3報の原著論文を発表することができたほか、MRIデータから視覚誘発脳磁場のピーク潜時を予測する研究も進捗し、原著論文を投稿する段階まで至っている。このため、本研究計画は概ね順調に進展していると言える。
また視覚障がいを対象とした研究から、異なるMRI指標は白質の微細構造の異なる側面を反映していることを示唆する結果が得られ、NeuroImage: Clinical誌の原著論文として発表した。今後はこうした研究の知見に基づいてMRI指標の解釈を進めることで、脳情報伝達効率をより良く予測する生物物理学的モデルの考案につながる可能性もある。
また、死後脳を対象とした視覚白質線維束の分析から、当初考えられていたよりも視放線が複雑な空間構造をも持つ可能性も示唆されているため、詳細な解剖学的知見の蓄積による研究の進展も期待される。
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今後の研究の推進方策 |
現在用いている拡散強調MRI法では、初期視覚経路など副鼻腔や眼球に近い領域で画像の歪みや信号低下などのアーティファクトが見られるため、これまでの研究は視放線に着目した分析を行ってきた。平成31年度に実施した予備実験により、readout-segmented EPI法と呼ばれる画像の歪みや信号低下などを低減する拡散強調MRI法を用いた計測を実施できる目処がたったため、異なる撮像方法を用いてさらに初期の視覚経路を分析する手法を確立し、脳情報伝達効率をより良く推定する研究につなげることが期待できる。
また視放線のデータから誘発脳磁場の潜時を予測する研究を行う過程で、MT野から一次視覚野へのフィードバック信号が誘発脳磁場の潜時に影響を与える可能性も浮上してきている。このため、一次視覚野とMT野を連絡する白質線維束を分析する研究を実施することで、こうした信号と関与する白質線維束を明らかにする。
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