研究課題/領域番号 |
17H04699
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研究機関 | 佐世保工業高等専門学校 |
研究代表者 |
槇田 諭 佐世保工業高等専門学校, 電子制御工学科, 講師 (60580868)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マニピュレーション / ケージング / 物体把握 / 物体認識 / 動作計画 / ロボットハンド / マニピュレータ / グラスピング |
研究実績の概要 |
本研究では幾何学的拘束(ケージング)による物体保持を保証した物体操作手法を提案し,ロボットによる作業の信頼性を高めることを目指す.ケージングはロボットハンドによって対象物を囲い込むケージ(鳥かご)を形成して,物体が抜け出せないように拘束する手法である.物体の形状情報のみで計画される動作を位置制御のみで実行できるという,ロボットに有利な利点をもつ.本年度は研究課題として「点群データから抽出された形状特徴に基づく把握形態のカテゴライズ」「ポテンシャルエネルギーの解析に基づく,力学条件と幾何学的条件を統一的に扱う評価指標の導出」に取り組み,以下の研究成果を得た. 点群データから抽出する形状特徴として,ループ形状を対象とした.例えば,マグカップやポットなど,取っ手を有する物体が対象となる.本研究ではループ部分の把握に際して,その穴部分にロボットハンド(グリッパー)の指を挿入する動作を計画することとした.まず,RGB-Dカメラから得られる対象物の三次元点群から,平面投影を経て入れ子になるループ群を抽出し,穴領域を特定する.その後,対象となるループの三次元位置および指を挿入する目標経路を生成する.2種類の対象物に対して把握計画を実験したところ,90%程度の成功率を達成する条件を得た.ケージングでは物体とロボットの多少の位置ずれを許容できるので,実環境における計測や制御の誤差などの影響を抑えることができる. 力学条件と幾何学的条件を統一的に扱う評価指標の導出については,幾何学的に物体が拘束される条件下で,物体がその拘束から脱出するために必要なエネルギーを算出することからアプローチした.しかし,ケージングされた対象物の位置・姿勢が不定であることからこの算出の困難が予想されたため,幾何拘束に関与するロボット指の力学拘束への寄与を算出する方針へ変更する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度に掲げた2つの研究課題のうち,「点群データから抽出された形状特徴に基づく把握形態のカテゴライズ」については,ループ形状を有する物体に対してその穴部分に指を挿入し,引っかけて把握するリング型ケージングを対象に,動作計画と実機実験を実施した.対象物にはポット等の硬い物体からケーブル,バッグなどの柔軟物までを取り扱った.この成果として,静的な条件下で物体の形状特徴の抽出,およびその特徴に基づく把握計画とその実行を達成している.なお,実際の実験条件下では物体の位置・姿勢の推定誤差やロボットの制御誤差,さらに柔軟物の多少の変形を伴い,計画通りの把握動作にならないこともある.しかし,幾何学的拘束のマージンをもつケージングの手法により,これらの誤差を適当に吸収して把握動作が達成できることが,提案手法の利点である.この動作戦略は双腕ロボットの持ち替え動作においても有効に機能する可能性を予備実験から得ているので,その自動化を進めたい.また,ループ以外の形状特徴に対する把握戦略を早期に組み込み,選択的に動作を決定できるよう改良する. もう一つの研究課題である「ポテンシャルエネルギーの解析に基づく,力学条件と幾何学的条件を統一的に扱う評価指標の導出」については,導出の検討過程において,幾何学的拘束からの「脱出」の定義が困難であることなどが十分に解決されなかった.ケージングではロボットによって対象物の運動可能な領域を制限するため,制限区域内での対象物の位置姿勢が不定となる.そのため,合理的なエネルギーの算出がまだ十分に検討できていない.そこで方針を転換し,幾何学的拘束の条件をより正確に記述したうえで,ロボット指の力学拘束への寄与を算出する方針へ変更する.把持姿勢を基本とすることで,従来の力学解析の手法に新たな条件を上乗せすることを目指す.
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究計画の未達部分を推進することに加えて,次年度以降の研究計画には「幾何学的拘束を考慮した物体把持・操作計画」「幾何学的拘束を考慮した持ち替え動作」「国内外のマニピュレーション競技会への参加・実機検証」を挙げている. 物体把持・操作計画と持ち替え動作については,対象物の形状特徴に応じた把握計画の選択的決定と,幾何学的拘束と力学拘束を統一的に扱う評価指標の導出をもとに,その実装を目指す.物体の形状特徴は画像処理分野などで高い物体認識精度をもつ手法が数多く提案されているので,それらを調査,改変することで効率的に開発が進むと見通している.また,従来多かった力学解析に基づく物体操作計画に,本研究課題で取り組むケージング(幾何学的拘束)を加味することで,力学条件だけでは表れない要素を動作計画の評価指標に組み込む.これによって,ケージング拘束の利点を生かした物体操作を確立する. マニピュレーション競技会への参加については,2018年度に開催されるWorld Robot Summit内World Robot Challenge: Industrial Robotics Category, Assembly Challengeにエントリーし,その参加のための準備をしている.本競技では各種工業部品のバラ積みピッキングからベルトドライブユニットの組み立ての自動化など,高い物体認識技術とマニピュレーション技術が要求され,本研究の手法がどの程度有効であるかの試金石となる.諸般の事情により参加がかなわない場合でも,課題解決に取り組むことは有用であるので,次年度以降の競技会を見据えて課題に取り組むことで,申請者の提案手法を評価,検証する.
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