本研究では産業革命以降の大気二酸化炭素濃度および水温の増大に伴い、海洋表層の窒素収支がどのように変化してきたかを造礁サンゴ骨格の窒素同位体比測定法を用いて明らかにすることを目的としている。世界で最も脱窒が盛んな1)アラビア海、最も窒素固定が盛んな2)カリブ海と3)北西太平洋に加え、北太平洋の窒素固定・脱窒の観測地である4)ハワイ、東部インド洋の湧昇域である5)スマトラ沖において造礁サンゴ骨格コアの窒素同位体比変動を復元するため、造礁サンゴ骨格試料の採取をおこなった。アラビア海においては連続的な現生サンゴ試料の採取が困難であったため、産業革命以前の化石試料を用いた。コアの下部や化石試料は続成を受けている可能性があるため、XRD解析にて続成がないか確認し、その後、ウラン系列の年代測定法および水温指標により、年代を決定した。得られたサンゴ骨格は酸素・炭素同位体比、Sr/Ca分析、窒素同位体比分析を行い、各海域の水温および塩分と人為起源の二酸化炭素の吸収量、海洋表層の溶存無機態窒素の起源の長期変動を復元した。五海域において過去100年から200年間の復元結果を得ることができた。またアラビア海、カリブ海、ハワイにおいて窒素同位体比分析が終了し、脱窒海域と窒素固定海域の産業革命前後の窒素収支についての議論が可能になった。本研究期間において得られた結果は国内および国際学会にて成果を報告し、一部は国際誌に掲載された。
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