研究課題
エアロゾルの直接・間接効果は、気候変動予測における最大の不確定要因の1つになっている。直接・間接効果の推定では、エアロゾルの粒径分布と光吸収性エアロゾル(ブラックカーボン・鉱物性ダスト)の混合状態の推定精度が鍵を握る。本課題では、この粒径・混合状態を十分に表現できる世界初の全球エアロゾルモデルを開発し、光吸収性エアロゾル各成分およびエアロゾル全体の直接・間接効果の推定精度を飛躍的に向上させる。このモデルを用い、光吸収性エアロゾルとその混合状態の時空間変動を明らかにする。また、光吸収性エアロゾルや直接・間接効果の推定における混合状態の重要性を明らかにする。そして、光吸収性エアロゾルやその気候影響評価の推定精度をさらに向上させていく上で重要になるパラメータ・素過程を明らかにする。平成29年度は、これまで領域3次元モデルWRF-chemで用いてきた、エアロゾルの粒径とブラウンカーボン(BC)の混合状態を解像したエアロゾルモデルのエアロゾルプロセス(凝縮・凝集・粒子生成など)とモデル表現(使用する変数の数など)を見直し、計算効率を10倍以上向上させたボックスモデルを開発した。そして、このボックスモデルを全球気候モデルCAM5に導入し、エアロゾルの粒径・BC混合状態を解像した全球エアロゾルモデルCAM5-chem/ATRASを開発した。エアロゾルの全球分布の計算を行い、従来のモデルに比べて、CAM5-chem/ATRASの計算がBC・有機エアロゾル・硝酸塩エアロゾルの質量濃度およびエアロゾル数濃度の推定精度を大きく向上させることを示した。また、混合状態や粒子生成過程、先端的な有機エアロゾルの生成過程を導入することの重要性を感度実験によって示した。これらの研究結果をとりまとめ、主著論文2本を査読付国際誌に投稿し、受理された。
2: おおむね順調に進展している
平成29年度は、エアロゾルの粒径と混合状態を解像した2次元ビン法を用いた全球エアロゾルモデルを解像した。BC混合状態を解像する重要性を、解像しない数値計算と比較することで明らかにした。これらの成果は、概ね計画通りである。また、論文投稿・出版については、当初の計画以上の成果をあげることができた。これらの理由から本研究課題は概ね順調に進展している。
今後の研究では、全球エアロゾルモデルに鉱物性ダストやブラウンカーボンといった他の光吸収性エアロゾルを考慮できるように、モデルの拡張・改良を行う。このモデルを用いた現在気候の計算を行い、エアロゾルの様々な地上・航空機観測等を用いて、モデル計算の検証を行う。発生源から高緯度域や外洋域への長距離輸送過程に着目し、各光吸収成分の大気中の濃度や沈着量、大気中での収支などを評価する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件)
Nature Partner Journals: Climate and Atmospheric Science
巻: 印刷中
Journal of Advances in Modeling Earth Systems
巻: 9 ページ: 1887-1920
doi:10.1002/2017MS000937
巻: 9 ページ: 1921-1947
doi:10.1002/2017MS000936
Aerosol and Air Quality Research
巻: 17 ページ: 3091-3105
doi:10.4209/aaqr.2016.12.0573