研究課題
大気微粒子(エアロゾル)と放射・雲との相互作用(直接・間接効果)は、気候変動予測における最大の不確定要因の1つになっている。直接・間接効果の推定では、エアロゾルの粒径分布と光吸収性エアロゾル(ブラックカーボン、ダスト、酸化鉄など)の混合状態の推定精度が鍵を握る。本課題では、この粒径・混合状態を十分に表現できる世界初の全球エアロゾルモデルを開発し、光吸収性エアロゾル各成分およびエアロゾル全体の直接・間接効果の推定精度を飛躍的に向上させることを目的とする。平成30年度は、これまで開発してきた全球エアロゾルモデルCAM5-chem/ATRASを用い、ブラックカーボン(BC)の大気加熱効果を推定した。BCの大気加熱効果を精度良く推定するためには、これまで注目されてこなかった個々の粒子の大きさ(特に、大気に排出された直後の粒子の大きさ)や化学組成(BC以外の成分による被覆量)を高い精度で表現・計算することが不可欠であることを明らかにした。そして、将来のBCの削減対策や温暖化対策を評価する際にも、個々の粒子の大きさと被覆量のモデル表現・計算が重要な役割を果たすことを示した。また、BCと同様に化石燃料の燃焼によって放出される黒色酸化鉄に関して、最新の多地点観測の結果を全球エアロゾルモデルに導入した。その全球での大気加熱効果を初めて推定し、黒色酸化鉄が近年着目されているブラウンカーボン(茶褐色の有機エアロゾル)と同程度の大気加熱効果を持ち得ることを明らかにした。さらに、人間活動によって放出される鉄(人為起源鉄)エアロゾルの大気中量が従来の見積りよりも約8倍も多いことを明らかにし、人為起源鉄が大気から海洋への主要な鉄供給源の1つとなり得ることを示した。これらの研究結果をとりまとめ、主著論文2本、共著論文4本を査読付国際誌に出版した。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度は、これまで開発・検証してきた全球エアロゾルモデルを用い、ブラックカーボンや酸化鉄などの光吸収性エアロゾルの気候に対する重要性(主に現在気候における大気加熱効果)を明らかにした。これらの成果は概ね計画通りである。また、これらの計算・研究内容を発展させ、海洋表層の植物プランクトンの一次生産において鉄が不足していると考えられている外洋域への大気からの鉄供給に関して、人為起源鉄が主要な起源の1つになり得ることを明らかにした。これらの成果は当初の計画以上のものである。本研究が関連する論文投稿・出版については、英国科学雑誌Natureの姉妹誌であるNature Communicationsに主著論文2本、Nature関連誌のnpj Climate and Atmospheric Scienceに共著論文2本を出版し、当初の計画以上の成果をあげることができた。これらの理由から本課題は概ね順調に進展している。
今後の研究では、現在気候だけではなく、過去(産業革命前)や将来(2100年)における気候・排出量条件において、光吸収性エアロゾルの濃度や気候影響(直接・間接効果)を推定し、各気候条件における混合状態の重要性を評価する。まず、産業革命前(西暦1750年)および将来(西暦2100 年)の排出量条件を用い、それぞれ10 年程度の計算を行う。そして、過去から現在にかけてと現在から将来にかけての各光吸収性成分とエアロゾル全量の濃度と放射収支の変化(直接・間接強制力)を推定する。また、光吸収性エアロゾルの濃度、光吸収量、直接・間接効果に対する混合状態の重要性を評価する。そのために、混合状態の表現を簡略化した感度実験を行い、簡略化しない表現(2次元ビン法)を用いたシミュレーションとの比較を行う。表現を簡略化した感度計算では、大気中での微物理・化学過程による混合状態の変化を計算できないため、これらの過程による光吸収量・吸湿特性の変化を十分に解像することができない(一般的なエアロゾルモデルの表現に近い)。過去・現在・将来のそれぞれの気候条件について、光吸収性エアロゾルの動態や気候影響の評価において混合状態や関連する微物理・化学プロセスを考慮することの重要性を評価する。
(2)タイトル全文:「大気中のすす粒子による地球温暖化効果:個々の粒子の大きさや被覆量の違いを考慮する重要性を解明」
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 5件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 6件) 備考 (2件)
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