研究課題
平成29年度は,本研究課題で使用する大気汚染物質輸送モデルであるNICAM-Chemのエアロゾルシミュレーションの再現性レベルを把握するために,複数の観測結果を用いてモデル検証を行った.モデルは水平解像度を最小10km程度,日本全体を25km程度に設定したストレッチ格子法を用いた.観測は,近年打ち上げられた我が国が運用する静止衛星ひまわりに搭載されたAHIのエアロゾル高時間分解能のリトリーバル結果を中心に,韓国で運用している静止衛星COMSに搭載されたGOCIのエアロゾル高時間分解能のリトリーバル結果,国立環境研究所が主に運用するライダーネットワークのエアロゾル鉛直分布,環境省が中心となって運用しているPM2.5地上観測の結果も用いた.比較対象とした2016年5月の結果では,NICAMが2つの静止衛星で検出された越境汚染をうまく再現でき,特にシベリア森林火災の日本への到来(高濃度エアロゾルの輸送)をうまく再現できていることが確認できた.しかし,日本周辺においてエアロゾルの鉛直分布を詳細に分析すると,NICAMで計算された森林火災由来のエアロゾルはライダーで得られたエアロゾル鉛直分布よりも過大評価で,地表面PM2.5濃度も観測に比べて過大評価していることがわかった.また,中国東岸でNICAMのエアロゾル量を過小評価していたことから,研究課題でターゲットとしている二次生成成分(硝酸塩と二次生成有機炭素エアロゾル)が現状で過小評価していることが示唆された.以上のように,モデルの得意な点と苦手な点が明らかとなり、モデルの標準実験設定が概ね整ったので,モデルの苦手な点である二次生成成分のモジュール高精度化に向けて着手した.
2: おおむね順調に進展している
予定通り、モデルの標準実験設定が概ね整い,平成30年度に向けた二次生成成分のモジュール高精度化にも着手することができたため.
平成29年度に準備を行ったNICAM-ChemによるPM2.5シミュレーションのための境界条件等の入力データを用いて標準実験を行い,モジュール改良版との比較のための出力データを作成する.並行して,二次生成粒子の生成過程の精緻化を進めるために,特に硝酸塩や有機炭素エアロゾルの新しいモジュールを組み込むことで,PM2.5の空間分布の変化に注目したテスト実験に着手する.実験はストレッチ格子法によって東アジアを対象とした領域実験を行うが,モジュールが全球規模計算においても不具合が生じないことを確かめるために,全球対象実験も行う.以上のような段階を経て,モジュールの正常な稼働が確かめられた後,本番実験にも着手する.得られた結果は可能な限り,学会等で発表を行う.
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
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