研究課題/領域番号 |
17H04714
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石原 康宏 広島大学, 総合科学研究科, 助教 (80435073)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ミクログリア / 化学物質 / 発達神経毒性 / 行動異常 |
研究実績の概要 |
化学物質の中には、胎児期に曝露すると成長後の行動異常を引き起こすものがあることが分かっている。着目すべきは、これら化学物質の多くがエピゲノムに影響し得ることである。また、脳内の免疫細胞であるミクログリアがスパインやシナプスの貪食を介して発達期の神経回路網の形成に関わることが明らかになりつつあり、ミクログリアと行動異常との関連が議論されている。これらの背景から、本研究では、『化学物質はミクログリアの遺伝子発現を長期的に変化させ、その結果ミクログリアが活性化し、異常な神経回路網が形成される』との仮説を検証する。 前年度に引き続き、バルプロ酸の発達期曝露による影響を検討した。妊娠マウスをバルプロ酸に曝露させたところ、海馬でミクログリアが活性化し、成長後の仔の空間認知機能と社会相互作用が低下し、また反復行動を示した。ミクログリア活性抑制薬であるミノサイクリンをバルプロ酸と併せて投与すると、ミクログリア活性化が抑制され、行動異常も改善した。神経回路機能の光計測を行ったところ、バルプロ酸の胎児期曝露により、興奮-抑制バランスが興奮側に大きくシフトしていることが明らかとなった。Cap analysis gene expression-sequence法を用い、バルプロ酸処置により発現が変動する遺伝子、活性が変化する転写因子を網羅的に解析し、ミクログリア活性を修飾する候補をいくつか見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
バルプロ酸胎児期曝露モデルにおいて、ミクログリア活性化、成長後の行動異常を検出し、さらに、それらの相関を、ミノサイクリンを用いて示すことができた。また、次世代シーケンサーを用いたミクログリア活性化因子の探索も順調に進んでおり、候補遺伝子を絞り込んだところである。加えて、今年度に神経回路機能の光計測を行うことができ、胎児期のバルプロ酸曝露により、出生後の海馬興奮-抑制バランスが興奮側にシフトしていることを見出した。 以上、ミノサイクリンを用いたミクログリア抑制実験、次世代シーケンスによる候補因子の同定に加えて、光計測による神経回路網の評価を完了したことから、進捗状況として『当初の計画以上に進展』とした。
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今後の研究の推進方策 |
1. バルプロ酸胎児期曝露にょるミクログリア活性化メカニズムの解明 Cap analysis gene expression-sequence法より、胎児期にバルプロ酸に曝露した個体の海馬において発現が変動し、かつ貪食に関与するとされる因子が複数同定されている。まず、real-time PCRとウエスタンブロットで発現変化を確認した後、in vitroミクログリアに発現させ、その機能を検証する。さらに、プロモーター領域を検索し、バルプロ酸曝露から発現変化に至るまでの経路の同定を目指す。
2. バルプロ酸以外の化学物質のミクログリアへの作用の検討 胎児期曝露により成長後に行動異常が発現するとされる化学物質を候補とし、ミクログリア影響、シナプス数の定量、興奮-抑制バランス評価、行動テストとバルプロ酸と同様の系で実験を遂行する。化学物質による発達期ミクログリア活性化と行動異常の普遍性を調べる。
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