研究課題
本研究の目的は、極域における雪氷の融解現象が、海洋表層の二酸化炭素と大気ー海洋間の二酸化炭素交換過程に与える影響を明らかにすることである。目的達成のために、H30年度は、(1)夏季、氷河および海氷融解水が流入する南極海沿岸域での海洋観測を実施した。また、(2)海氷融解期のオホーツク海沿岸サロマ湖での海氷観測を実施した。(1)では、南極大陸沿岸付近の氷河や海氷融解が顕著な場において、海洋表面の塩分および二酸化酸素濃度は低くなった。また、植物プランクトン現存量の指標となるクロロフィルa濃度は高くなった。このことより、融解水流入による希釈と、植物プランクトンによる二酸化炭素の取り込みにより、海洋表層の二酸化炭素濃度は大気に対して低くなり、大気から海洋表層への二酸化炭素吸収が確認された。現在、採取した海水試料の分析および解析を実施しており、今後、氷河や海氷融解水流入による希釈と植物プランクトンによる二酸化炭素の取り込みの割合など明らかにする予定である。(2)では、海氷表面が融解する際の大気―海氷間の二酸化炭素交換量をチャンバー法を用い直接測定した。その結果、交換量の値は負となった(負の値は大気から海氷への二酸化炭素吸収を意味する)。これは、海氷や海氷上に存在する積雪が融解し、海氷ブラインチャネル内部のブラインの二酸化炭素が融解水の影響により希釈され、大気に対して二酸化炭素濃度が低くなった結果であると考えられる。また、採取した海氷コアサンプルを鉛直方向に4層に切り、融解後、クロロフィルa濃度を測定したところ、海氷底部のみで高濃度になった。よって、海氷表面では、融解水流入による希釈に伴う二酸化炭素濃度の減少が、大気から海氷表面に二酸化炭素が吸収される主な原因であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、極域における雪氷の融解現象が、海洋表層の二酸化炭素と大気ー海洋間の二酸化炭素交換過程に与える影響を明らかにすることである。目的達成のために、H30年度は、(1)夏季、氷河および海氷融解水が流入する南極海沿岸域での海洋観測を実施した。また、(2)海氷融解期のオホーツク海沿岸サロマ湖での海氷観測を実施した(詳細は研究実績の概要)。上記観測により、極域における雪氷の融解現象は、海洋表層の二酸化炭素濃度をより減少させ、結果として、大気から海洋への二酸化炭素吸収が増加するという現場証拠を得た。また、上記の程度を詳細に評価するための現場海水試料を採取することができた。このことより本研究は、おおむね順調に進展していると評価した。
H31年度は本研究課題の最終年度となるので、計画済の現場観測と大型低温施設での海氷模擬実験を実施するとともに、これまで採取したデータの解析し、まとめの作業をする。特に大型低温施設での海氷模擬実験は、現場観測で得られた結果の普遍性を確認するものであり、本研究課題をにおいては重要な位置付けとなる。具体的な実施項目は、(1)中央北極海でのドイツ砕氷船による長期観測(9月から)である。観測では、海氷上での大気ー海洋間の二酸化炭素交換量測定、アイスコアラーによる海氷サンプルの採取、鉛直採水・CTD観測(温度・塩分)を実施する。各調査で採取した試料は、各分析項目(全炭酸、アルカリ度、塩分、酸素安定同位体、栄養塩、クロロフィルaなど)に合わせ、融解・濾過・試薬添加などの処理し、冷凍・冷蔵・常温で持ち帰り、分析を進める。また、(2)大型低温施設での海氷模擬実験は、9月にイギリス・イーストアングリア大学で実施する。温度センサーを鉛直的に配置し、雪氷融解による成層化の様子を把握する。また、気相部分の二酸化炭素濃度測定のためのシステムを構築する。そして、雪氷融解実験を実施する。(1)、(2)、これまでの観測データより、北極、南極、オホーツク海、室内実験など主要な極域や極域環境をカバーしたデータセットを得ることが可能となり、本研究の目的である「極域における雪氷の融解現象が、海洋表層の二酸化炭素と大気ー海洋間の二酸化炭素交換過程に与える影響」を総合的に評価することが可能となる。
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