活性汚泥は100年以上水処理に利用されてきたが、数千種で構成される複雑な微生物コミュニティによる水処理メカニズムは未解明の部分が多く、その複雑性は今なお予期せぬトラブルの原因になっている。本研究ではこのブラックボックス解消を目的に掲げている。活性汚泥の網羅的解析により系内の鍵微生物を特定し、それらを構成員とするシンプルな人工活性汚泥を構築することで、活性汚泥の機能が成立するために必要となる条件の解明に挑んできた。 前年度までの研究成果より、活性汚泥中で増えすぎた微生物(余剰汚泥)の減容に寄与する捕食性細菌が重要な機能を果たすことが明らかとなり、本年度も当該微生物の解析を進め、その捕食メカニズムについて代謝レベルで解明を行った。また、微生物捕食を促進させる因子についても研究を進め、汚泥の物理的性質が重要であることなどを解明している。さらに、当初の計画通り、これまでの研究でその重要性が示された微生物種を保存機関より取得し、複数種の細菌からなるシンプルな微生物コミュニティを作成し、その生態系の安定性を評価した。 また、得られた研究成果についても学術誌での発表などを通して積極的に発信することができた。特に2019年5月に公開されたCommunications Biology誌掲載の論文では、活性汚泥内にごくわずかにしか存在しない微生物の活性が水処理システム全体の機能を左右するという興味深い事象を見出しており、プレス発表や解説文の寄稿なども通して広く成果の発信をすることができた。本研究については企業等からも多数の反響を頂いており、学術的のみならず産業的にも意義のある研究成果を得ることができた。
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