研究課題/領域番号 |
17H04719
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
若井 暁 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 特命准教授 (50545225)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 微生物 / 金属腐食 / 次世代シーケンス / カルチャーコレクション / バイオリソース / データベース / 環境評価 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、既知・未知微生物の腐食能を調査しデータベース化し、遺伝子マーカーを特定することで、微生物腐食に対する革新的な診断技術を開発することである。本課題では、カルチャーコレクション株の入手可能な基準株を網羅する形で腐食試験を行い、同時に環境サンプルを用いて未分離株の腐食能の調査を進めている。平成29年度は初年度ということで、カルチャーコレクションからの菌株入手に対する調整、様々な培養特性を示す微生物株を網羅的に培養するための培養環境の調整に時間を割き、並行して比較的簡易に培養が可能な微生物株について腐食試験を実施した。また、環境サンプルを用いた試験では、化学工場排水配管内の排水に加えて、堆積物を入手することに成功したため、これらの微生物群集構造解析ならびに実験室レベルでの腐食再現試験を実施した。 (1)カルチャーコレクション株に対する金属腐食能試験:本研究項目では、既知微生物に対する網羅的な腐食能の調査を目的としている。微生物カルチャーコレクションとして理化学研究所バイオリソースセンターJCM株に対して、培養、腐食能試験を実施した。比較的培養が容易な、嫌気性常温菌をメインに250株試験した結果、これまで金属腐食能が報告されていない菌株において、非常に強い金属腐食能を確認した。 (2)環境サンプルを用いた腐食再現試験と微生物群集構造解析:本研究項目の目的は、既知微生物である基準株中に存在しない未分離微生物による金属腐食能を調査することで、腐食能を有する微生物の取りこぼしを回避することである。化学工場から入手した排水および堆積物を用いて培養試験を開始し、排水および堆積物の元サンプルについて微生物群集構造解析を実施した。排水および堆積物では明らかに微生物群集構造が異なることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度ということで、カルチャーコレクションとの調整、網羅的に微生物を培養するための準備等に時間を多く費やしたが、カルチャーコレクションから菌株の入手を進め、県対数の母数としては予定を下回ったが、早々に新規腐食性微生物を発見したことは評価できる。また、環境サンプルについても実際に腐食が発生している環境から、直接堆積物を回収することに成功している。 (1)カルチャーコレクション株に対する金属腐食能試験:微生物カルチャーコレクションとして理化学研究所バイオリソースセンターJCM株に対して、培養、腐食能試験を実施した。比較的培養が容易な、嫌気性常温菌をメインに250株試験した。これは、当初予定していた菌株数を下回ったが、培養環境のセットアップ等に時間を費やしたため、今後のスピードアップが十分に期待できるものである。また、培養試験の結果、これまで金属腐食能が報告されていない菌株において、非常に強い金属腐食能を確認している。この新規腐食性株はClostridium属に属するが、近縁のClostridium細菌達が腐食能をもたないため、有機酸生産といった共通の能力が影響しているのではなく別のメカニズムがあると推定できる。 (2)環境サンプルを用いた腐食再現試験と微生物群集構造解析:化学工場から入手した排水および堆積物を用いて培養試験を開始し、排水および堆積物の元サンプルについて微生物群集構造解析を実施した。排水および堆積物では明らかに微生物群集構造が異なることを確認した。堆積物中では、硫酸塩還元細菌に加えて有機酸生産を行う嫌気性の従属栄養細菌の集積が確認されており、石油タンク底水環境でみられるような複数微生物のコンビネーションによる新規腐食体系である可能性が示された。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、(1)カルチャーコレクション株に対する金属腐食能試験を継続するとともに、新しい環境サンプルが追加で入手できているので、(2)環境サンプルを用いた腐食再現試験と微生物群集構造解析も進める。また、実験室レベルでの腐食再現に成功するとともに、新規腐食性菌が見つかっているので、(3)腐食再現試験液からの腐食性菌の分離および腐食能の評価も新規に進める。 (1)カルチャーコレクション株に対する金属腐食能試験:カルチャーコレクションからの菌株入手体系は平成30年度は維持されるため、継続して実施するとともに、初年度にセットアップした培養環境を有効に使って初年度よりも多くの菌株について検討を進める。 (2)環境サンプルを用いた腐食再現試験と微生物群集構造解析:環境サンプル中の微生物群集構造解析については完了したので、これらの環境サンプルを用いて実施している実験室レベルでの腐食再現試験の培養液について、微生物群集構造解析を実施し、継代による微生物群集構造の遷移や元サンプルとの比較、水試料-堆積物-培養物の三者比較を実施し、主座標分析により腐食性微生物群集構造への遷移を視覚化する。また、これらの微生物群集構造データ群をデータベースとして、未知試料の腐食リスクの推定が可能かどうか調べる。加えて、平成29年度までに、企業からの持ち込みサンプルで腐食性が疑われる環境資料等が入手できているので、継続して微生物群集構造解析と培養試験を実施する。 (3)腐食再現試験液からの腐食性菌の分離および腐食能の評価:環境資料を用いた腐食再現試験で腐食能が見られるサンプルについて、段階希釈法及びコロニー形成法にて腐食性微生物の分離を試みる。また、カルチャーコレクションから見つかった新規腐食性菌について、その腐食メカニズムを明らかにするために、ガス分析や性状解析を実施する。
|