研究課題/領域番号 |
17H04727
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
石川 翔吾 静岡大学, 情報学部, 助教 (00626608)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 学習基盤 / 認知症ケア / 共創 / エビデンス / センシング |
研究実績の概要 |
医療・介護分野は閉鎖的でエビデンスの構築と利用(Evidence-based Care)がシステム化されていないため,評価と学習のサイクルが有機的に循環せず,有効なケアスキルが形式知化されていない.本研究では,根拠に基づいた認知症ケアを実践するためにエビデンスの構築・利用を促進するスキル伝承支援プラットフォームを構築し,実証研究を行うことが目的である.本プラットフォームを評価することで,認知症ケアの科学化と学びが,認知症ケアの普及にいかに貢献し得るかを明らかにする.以下にH29年度の成果概要を示す. 1.マルチモーダルケア技法ユマニチュードに着目し,達人の知を主観の客観化アプローチによって見える化し,認知症ケアの客観評価が実現できることが示された. 2.認知症ケアを実践するためには,見る・話す・触れるという基本スキルの習得だけではなく,どのタイミングでどのようなスキルを利用するか,その思考プロセスを理解する必要がある.そこで,Minskyの多重思考モデルに着目し,なぜそのスキルを活用したのかという思考プロセスを表現するためのモデルを設計し,達人の思考プロセスの表現に寄与できることが示唆された. 3.ケアの実践映像事例を投稿し,全員で映像に対してコメントしながら協調的に学ぶことができる組織協調学習環境を構築した.郡山市の病院を中心に実証評価実験を進め,組織全体で継続的に認知症ケアを学ぶための仕組みの有効性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,1) ケアの内容を収集し,客観的に評価するための仕組みがない,2) 認知症ケアスキルの言語的な表現は難しく,複雑で簡単には習得・実践できない,3) 実践結果を振り返り実践者同士で継続的にスキルを学ぶ協調学習環境がない,という三つの課題を設定した.H29年度はそれらの課題に対し,以下の三つの達成目標を掲げ研究を進めた. 認知症ケア評価システム:マルチモーダルケア技法ユマニチュードに着目し,経験的で主観に留まっているケアスキルを主観の客観化アプローチによって見える化し,認知症ケアの客観評価を進めている. 認知症ケア知識の構造化:ボトムアップのアプローチではなく,認知症ケアの有効性を評価するための構造を設計し,トップダウンな分析フレームワークを設計した.なぜ,そのスキルを活用したのかという思考プロセスをAIモデルに適応することで,達人の思考プロセスの表現に寄与できることが示唆された. 協調学習支援環境:郡山市の病院を中心に,ケアをした映像事例を投稿することによって全員が自発的に学ぶことができる組織協調学習環境を構築し,実証評価を進めており本環境の有効性が示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は以下に示す研究計画に則って予定通り推進する. 認知症ケア評価システム:経験的で主観に留まっているケアスキルを見える化し,コミュニケーションを表現するためのマルチモーダル映像センシング分析システムを発展させて,センサ情報と主観的な観察情報を融合させて分析できる認知症ケア評価システムを開発する. 認知症ケア知識の構造化:ボトムアップのアプローチではなく,認知症ケアの有効性を評価するためにMinskyの多重思考モデルに基づく認知症ケア評価モデルを設計し,トップダウンな分析フレームワークを確立する.本知識構造をさらに柔軟に評価するために,ケアの達人の協力の下,ケーススタディを通して構造の評価を進める. 協調学習支援環境:昨年度郡山市の病院を中心に進めてきた協調学習環境の構築を継続的に進める.チームの協調学習プロセスを分析し,構築した環境の有効性を検証する. また,今年度は,これまで集約した情報を構造化した振り返り型知識コンテンツを製作し,現場へフィードバックしながら実証評価を進めるとともに,研究協力施設の拡大を進める.研究協力施設には,既に藤沢市の介護施設と連携体制が構築されており,計画通り遂行できる見通しが得られている.
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