研究課題
本研究の目的は,根拠に基づいた認知症ケア(Evidence-based care)を実践するために,エビデンスの構築・利用を促進するスキル伝承支援プラットフォームを構築し,実証的研究を行うことである.本プラットフォームを活用した認知症ケアの科学化と学習支援が,認知症ケアの普及にいかに貢献し得るかを明らかにする.以下に2018年度の成果概要を示す.1.経験的で主観に留まっているケアスキルやその意図をモデル化し評価するためのマルチモーダル映像分析システムを開発した.Minskyの多重思考モデルに基づき,ケアの時系列変化とスキルの関係やなぜそのスキルを活用したのか(ケアの意図)を評価するモデルを設計し,システムに組み込んだ.慢性期病院で得られた実践映像を評価した結果,熟練者と初学者のケア行為の違いを心的状況に踏み込んで表現できることが示された.2.ケアの実践映像事例を投稿し,全員で映像に対してコメント(指導)しながら協調的に学ぶことができる組織協調学習を実践した.指導を受けた学習者にとっては学習効果があることが確認されたが,指導者自身の学びにつながるのか課題があった.そこで,多重思考モデルに基づいてコメントデータの意図を他の指導者にもフィードバックする機能を追加した.その結果,インストラクターレベルの指導を可視化しフィードバックすることによって,指導者自身にも学びが促され,組織全体が学ぶ仕組みの有効性が示された.
3: やや遅れている
本研究では,1) ケアの内容を収集し,客観的に評価するための仕組みがない,2) 認知症ケアスキルの言語的な表現は難しく,複雑で簡単には習得・実践できない,3) 実践結果を振り返り実践者同士で継続的にスキルを学ぶ協調学習環境がない,という三つの課題を設定した.2018年度は,病院の状況(勤務体制や感染症等)によって,円滑に進めることができない場面が生じてくることが多々あった.連携施設を拡充する方法が考えられるが人的コストが大きいため,計画を柔軟に変更しながら進めていく必要がある.そのため,本年度は計画における学習支援を中心に研究開発を進めた.学習支援にフォーカスしたことで,認知症ケアスキル知の構造化と組織全体で学ぶための方法論が確立したことは特筆に値すると考えている.
2019年度も継続して認知症ケアスキルの評価と学習支援を両輪で推進するためのシステム開発と評価を進める.システムのパッケージ化及び自動化の機能を開発することで,人的コストの低減を実現し,協力施設の増加を進める.既に協力関係が構築された介護施設が複数あるため,施設増のためのコストは低い.以下,それぞれの開発項目の推進方策である.認知症ケア評価システム:認知症ケア評価システムでは,映像データに加えセンサ情報を複数組み合わせて評価できる仕組みに拡張させる.評価した結果を学習支援に活用できるように,データの利活用の機能を開発する.協調学習支援環境:組織協調学習環境の構築と評価を継続的に進める.チームの協調学習プロセスを分析し,構築した環境の有効性を検証する.
すべて 2018 その他
すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件) 備考 (3件)
人工知能学会誌
巻: 33 ページ: 307-315
巻: 33 ページ: 316-321
https://ninchisho-assist.jp/
http://uepd.takebay.net/
https://www.nhk.or.jp/heart-net/article/184/