研究課題/領域番号 |
17H04728
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
市原 猛志 九州大学, 大学文書館, 協力研究員 (00590564)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 鉱滓煉瓦 / 八幡製鐵所 / 高炉スラグ / 釜石 / 室蘭 / ドイツ / 台湾 |
研究実績の概要 |
令和元年度は国内外における鉄鉱滓煉瓦の現存状況を把握するため、英国・ドイツ・台湾に赴き、八幡製鐵所製と思われる鉄鉱滓煉瓦の南限を台湾台北市内で発見することができた。英国では鉄からみ煉瓦の街路塀への使用を、ドイツではルール工業地帯周辺をはじめとして複数の製鉄所での鉄鉱滓煉瓦の使用を確認した。またドイツにおける文献調査では、鉄鉱滓煉瓦発明者のフリッツ・W・リュールマンに関する事績を多く入手、これについては大学院生に翻訳を依頼し、成果を日本産業技術史学会年会(6月)にて速報的な報告を行うべく、準備を進めている。 前年度に引き続き、ユネスコ世界遺産委員会へのオブザーバ参加が認められた。アフリカ等世界各地における製鉄関連遺跡の世界遺産登録が行われる中、地域性を内包した素材の文化的景観での重要性を再認識し、これについては「明治日本の産業革命遺産」構成資産内での助言に反映させていきたい。 「2.普及の範囲とその傾向」に関しては、6月に岩手県釜石市の鉄鉱滓煉瓦現存状況実地調査及び関連企業ヒアリングを行い、これと前年度成果をもとに後述する論文をまとめた。また年度末にかけて九州帝国大学工学部学生実習報告書の文献調査からも成果を得たため、こちらも関係する学会などで成果発表を予定している。 本年度の研究発表に関しては、産業考古学会総会発表(6月)と前述した査読付き論文一本の作成(R2年3月発行)、日本産業技術史学会での発表(6月)及びBuilding Peace through Heritage Symposiumでの講演要旨提出(R2年3月)を行った。また年次調査報告会を東京(千駄木マド・R2/1/11)で開催するとともに、一般書籍としての単著出版(7月)や中間報告会として産業考古学会全国大会とのイベント共催(福岡県中間市・なかまハーモニーホール・11/9)を行い研究成果の還元を推し進めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
製鐵所文書の一部データから鉱滓煉瓦の技術導入について調べだせないか検討を行ったが、これに関しては初期留学製鐵所技術者の復命書が製鐵所文書内に残っていないことから、労力ほどの成果は少ないことが分かった。九州大学所蔵の学生実習報告書からは、既往文献における見解とは大きく異なる、鉄鉱滓煉瓦生産と普及に関する実像が明らかになり、当初想定していた見込みを大幅に上回る成果が見られ、また海外文献にも成果が見られたことから、当初の計画以上の進展と記載した。これら成果については現在早期の成果発表を目途に分析作業を進めているところである。景観材としての鉄鉱滓煉瓦に関する研究については、今年度調査予定であるが、すでに企業ヒアリングなどで地域とのつながりや素材としての鉄鉱滓煉瓦に対する認識を質問対象として織り込み、遂行したが、直接的な意識に関する言及は見られなかったため、「4.地域活性化に景観材として貢献しうる評価指標」に関しては、今年度の研究成果次第で成果を見込めるよう、作業を進めたい、 今年度の評価に関しては、当初予定していた海外事情に関する出張調査及び国内外における成果発表の可否次第で最終的な進展度が確定する。すでに国際イコモス総会の縮小または中止がアナウンスされており、当初の見込み通りの計画遂行は困難になりつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度での海外追補調査が困難である以上、国内でできる調査を優先して行っていきたい。具体的には、緊急事態宣言終了後早期の時点で北海道及び岩手県内で想定される鉄鉱滓煉瓦使用物件の確認調査を行うとともに、鉄鉱滓煉瓦北限に関する調査を9月に予定、また文献調査として感染症問題事態終息後、東京で開設された産業遺産情報センターと連携する形で、図書館や公文書館、また企業アーカイブなどの調査を推し進めていきたい。また最悪の事態に備え、年度末の成果報告発表シンポジウム開催を念頭に置きつつ、それが困難な場合の代替策として、パネルでの成果発表巡回展や報告書作成、その他手段を今後の状況を鑑みながら模索していきたい。
|