今年度は、高樹齢の青森ヒバ(ヒノキアスナロ)現生木の酸素同位体比分析を進め、過去300年のデータを獲得した。また、前年度に続いて東京都愛宕下遺跡出土材の分析を進め、15-17世紀の酸素同位体比データを得た。データを追加することで高精度気候復元にも活用できる質の高い標準年輪曲線が構築できた。宮城県仙台市中在家南遺跡出土材の分析を進めた結果、これまで東北地方太平洋側では空白であった紀元前1-紀元2世紀のデータが得られた。これに加えて、福島大学木村勝彦教授とのデータ共有により佐渡島各地の遺跡出土材データが得られ、東北日本の過去3400年間におけるデータ空白はほぼ無くなった。 応用研究として、本研究で年代確定した青森ヒバ試料を用いた1年輪単位の炭素14分析を実施した。その結果、西暦774-775年と西暦993-994年の炭素14濃度急増イベントを再現できた。また、太陽活動極小期のひとつ「シュペーラー極小期」の炭素14濃度変動を復元することもできた。これらの成果は国際会議や国際誌にて公表した。 代表者の所属する国立歴史民俗博物館の事業と共同で、モバイル型展示ユニット「日本で生まれた新しい年代測定法『酸素同位体比年輪年代法』」を製作し、これまでの成果を広く外部に発信する媒体を得た。この展示ユニットは次年度以降、全国各地の教育施設等で活用される予定である。
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