研究実績の概要 |
2020年度は、2019年度に熊本県西原村布田で掘削した布田トレンチの壁面に出現した地層と断層イベントの年代推定を行うために、放射性炭素年代測定を実施した。この布田トレンチは、2016年熊本地震で地表に現れた2条の地震断層それぞれを横断するように掘削された合計5つのトレンチから構成される。 得られた年代測定結果とテフラから、トレンチ壁面には約3万年前以降の地層が分布していることがわかった。そして、トレンチ内で認定された断層イベントから、少なくとも3万年前以降に繰り返して断層が活動してきたことがわかった。特にK-Ahテフラ(7300年前)以降には、2016年熊本地震を含めて4回の断層イベントが推定された。これは、2016年熊本地震前にわかっていた布田川断層帯の活動履歴と比較すると、非常に短い間隔の断層活動を示す。本科研費で実施した2017・2018年度のトレンチ調査から得られた布田川断層周辺の地震断層出現地点の古地震履歴と比較すると、同様の年代に断層イベントが発生してきたことがわかる。これらは、2016年熊本地震で出現した布田川断層沿いの地震断層とその周辺に広域に出現した地震断層は、過去にも同様の断層運動により同時に出現したことを示唆する。 また2017年度に阿蘇カルデラ内の阿蘇市宮地で掘削された宮地トレンチの成果が、Earth, Planets and Space誌に掲載された。本論文では、2016年熊本地震で出現した微小な断層変位を示す地震断層上で実施されたトレンチ調査結果を記載している。このトレンチ壁面では、2016年に先行する約2000年前の断層イベントが認定された。この年代はカルデラ内の遺跡に残された亀裂の年代や他の研究機関で得られた布田川断層の1回目の古地震履歴と整合的であった。このことから約2000年前には、2016年熊本地震と同様の断層活動があったと推定した。
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