研究課題
本年度は、申請時の研究計画で示した通り、モデルの構築に取り組んだ。構築したモデルは、エージェントが保持する病原菌の量を再現するようなモデルで、エージェント同士が自らが保持する菌を伝搬しあうようになっている。これにより、ヒト側と病原菌側の最適性や進化ダイナミクスを捉えることができると考えている。本モデルでは特に重要な機能として、個人の保有菌量の履歴とそれに伴う保菌者の状態遷移(病気をうつされたり、治ったり、悪化したり)を再現することができる。また集団(マルチエージェント)内での感染症の蔓延を再現することに成功した上で、おおむね満足のいく進捗だと判断した。具体的な今年度の業績としては、査読付き国際学術誌Scientific Reports誌への共著論文を二報発表した。学会発表は情報処理学会ネットワーク生態学シンポジウムと、日本生態学会にて計二度のポスター発表を実施した。特に学会で発表した内容は、日本に古来から存在するHTLV-1という性感染症(STIs)に関する数理モデルの研究であり、今のところ一度HTLV-1に感染すると根治するすることは難しいという点で薬剤耐性菌性感染症とも大きく関連する内容である。したがって、結核といった感染症だけでなく、日本で近頃大きく報道されている性感染症(梅毒、淋病、クラミジア等)の薬剤耐性菌についてもこのモデルによって議論することができることに気づいた。現在、母子感染のある性感染症の伝搬モデルの論文を投稿中であり、これらの研究を統合的に捉えることで研究を進めていくことができると考えている。8月にはこれまでの研究成果が評価され、日本進化学会研究奨励賞を受賞した。
2: おおむね順調に進展している
申請時の研究計画で述べた通り、初年度の目標である「モデル構築」を無事遂行した。モデルの要件としては、ヒト側と病原菌側の最適性や進化ダイナミクスを捉えることのできるマルチエージェントモデルとなっており、概ね要件を満たすモデルが完成した。個人の保有菌量の履歴や、保菌者の状態遷移などを再現できると同時に、集団内での感染症の蔓延を再現することに成功した。したがって、概ね順調に研究は進んでいると判断した。
申請時の研究計画通り、耐性菌が出現しない場合の最適な抗生剤投与戦略を導出する。ここでは病原菌の側面から、最適な感染力を導出し、それがヒト側の薬剤投与戦略とどのように関連しているか検証する。生物学的な環境変動の概念から、病原菌の感染力にどのような進化的駆動が働くか検証する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 備考 (2件)
Scientific Reports
巻: 8 ページ: 1197
10.1038/s41598-017-19044-9
巻: 7 ページ: 16777
10.1038/s41598-017-16859-4
https://sites.google.com/view/h-ito/
https://researchmap.jp/hiromu_ito/