研究課題
研究代表者は、シミュレーションモデルから耐性菌が出現する際の最適な対処法(薬剤投与戦略)を構築する過程で、薬剤(抗生剤)使用の背景に社会的ジレンマが存在し得ることに気付いた。これは、自分以外の全員が抗生剤の使用を控えていれば耐性菌の出現リスクも低いため、「自分一人くらいは抗生剤を使用していい」「自分が抗生剤の使用を我慢したところで、我慢しない他者が耐性菌を出現させるので、自分だけが我慢するのは損」という合理的意思決定から社会全体が最適な状態にならないという社会的ジレンマ構造である。つまり、いくら数理モデルによる理論上の最適な薬剤投与戦略を構築したとしても、人間である我々がその決定に従うことができるだろうか?という問題が常に社会には存在していることに他ならない。そこで研究方針を一部変更し、抗生剤使用の意思決定に存在する社会的ジレンマを、いくつかの国でWeb調査を用いて実測することにした。日本・米国・英国の三か国において各国の男女計5000人を対象に大規模なWebアンケート調査を行うことで、人々の中に存在する社会ジレンマを観測する試みである。調査した全ての国から、予想通り社会的ジレンマを観測することができた。これは世界で初めて抗生剤使用の背景に存在する社会的ジレンマを観測したものであり、研究発足当時には予想していなかった大きな成果と言える。感染症に関する業績としては、予定通りネットワークを導入した感染症の拡散モデルを開発した。これは広く性感染症に対応可能なモデルである。またヒトのネットワークを把握するためのWeb調査研究も展開して、ヒトの性接触頻度を把握するなど、実データ方面でも成果が挙がった。その他にも今後の本研究の展開に不可欠な社会的ジレンマに関する論文も発表し、計6報の査読付き論文を発表するに至った。
1: 当初の計画以上に進展している
マルチ・エージェント・シミュレーションの構築や、ネットワーク構造を導入した感染症の拡散数理モデルの開発で成果を挙げた。さらに薬剤使用の背景に存在し得る社会的ジレンマに目を向け、Web調査を展開した。この調査によって、社会のために抗生剤の使用を控えるかどうかという問題に社会的ジレンマが存在することを明らかにした。これは世界で初めて抗生剤使用の背景に存在する社会的ジレンマを観測したものであり、研究発足当時には予想していなかった大きな成果と言える。現在論文を執筆中である。
継続してWeb調査による社会的ジレンマの観測を進める。現在は日米英の三か国のみだが、調査対象国を広げることで、社会的ジレンマが世界の背景に存在する普遍的なものであることを示す。結果を論文にまとめ、抗生剤の使用に関して発生する社会的ジレンマの存在を世に提唱する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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