研究課題/領域番号 |
17H04735
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中川 桂一 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 講師 (00737926)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生物・生体工学 / 可視化 / 細胞・組織 / 応用光学 / 生物物理 |
研究実績の概要 |
近年,弾性波による生体の再生や活性化の報告がなされているが,そのメカニズムは未だ明らかになっておらず,安全性の担保や効率化には大きな壁がある.そこで本研究では,精密制御された弾性波,高速度計測,自動化スクリーニングをキーワードに,弾性波照射による非定常力学刺激が細胞に与える効果とそのメカニズムを明らかにするという新しいアプローチをとる.本年度は弾性波発生と高速度計測を行う光学系の構築に取り組んだ.弾性波の発生に関しては,フェムト秒からピコ秒まで様々な光パルス幅で粗密波および表面波を生成できる状況である.高速度計測に関しては,既存の自作顕微鏡システムに,超高速光イメージングSequentially timed all-optical mapping photography (STAMP) および高速度カメラを組み込めるようにした.後者の高速度撮影に関しては,200 nsの時間分解能が実現できるシステムとなっており,前者のSTAMP光学系は現在構築を進めている.また,弾性波を発生させるシステムとして,フェムト秒パルスをサンプルに照射するシステムの開発を進めている.フェムト秒パルスを,粗密波であれば液中にある微粒子に,表面波であればサンプルの基盤に蒸着させた金属薄膜にフォーカスすることで瞬間的に光エネルギを蓄積し,弾性波へと変換させる.弾性波生成のために用いるレーザの納品に時間がかかったため光学系の構築がやや遅れているが,昨年度に前倒しで行っていた設計があるため,本年度は当初の計画通りに進むものと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2017年度の研究実施計画においては,細胞に負荷する弾性波を高い再現性,精密性,自在性で起こすためのレーザ駆動弾性波生成システムの開発を主目標としていた.弾性波発生のために用いるフェムト秒レーザの発注は本研究費の期間がスタートし,研究費が執行可能となって間もなくの5月に完了したが,納品が12月5日になった.そのため,代わりとしてその期間は細胞への弾性波および細胞応答の観察を行うシステムについて設計を行った.本研究期間以前に細胞に対してカンチレバーにて機械刺激を負荷する実験系を構築していたため,その実験系に弾性波発生用のフェムト秒パルスを導光するシステムとした.現象の評価については,弾性波ダイナミクスは超高速光イメージングSequentially timed all-optical mapping photographyおよび高速度カメラを組み込み,細胞応答は蛍光観察系により行う.レーザの納品後は,フェムト秒パルスを取りまわす基本的な光学系(アッテネータ,ディレイステージ)などに取り組んだ.現在のところ,フェムト秒からピコ秒の励起パルスにより水中衝撃波およびガラス上に表面弾性波を生成可能となっている.
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今後の研究の推進方策 |
3年計画の2年目にあたる本年度は,まず光学システムの完成と発生した弾性波の評価を行う.細胞スケール(1-100マイクロメートル)の立ち上がり波面をもつ粗密波および表面波を,フェムト秒からピコ秒のそれぞれのパルス幅をもつレーザパルスにて発生させ,そのダイナミクスをサブナノ秒(STAMPによる撮影)からミリ秒(高速度カメラによる撮影)にわたる時間領域で連続的に捉え,解析をする.この弾性波の評価は,細胞にどのような物理刺激が与えられるかを推測するために重要である. 次に,細胞に対して弾性波を照射し,応答を観察する.用いる細胞としては線維芽細胞および内皮細胞をまずは用いる.申請者らの研究グループではこれまでHeLa細胞,NIH3T3細胞,MDCK細胞などへの水中衝撃波負荷の実績があり,その技術を取り入れる. レーザの納品に時間がかかったため,光学系の構築はやや遅れているが,昨年度に設計は終わっているため当初の計画どおりの進捗が本年度は得られるものと考えている.
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