研究課題/領域番号 |
17H04738
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
新岡 宏彦 大阪大学, データビリティフロンティア機構, 特任准教授(常勤) (70552074)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 第二近赤外領域 / 光学顕微鏡 / 生体深部イメージング / 細胞イメージング / アップコンバージョン |
研究実績の概要 |
マウスなどの動物内に移植した細胞の動体観察や、その再生医療応用を目指し、生体深部の1細胞イメージングが可能な技術の開発を行う。初年度(H29年度)は、以下の成果を得た。 1. 第二近赤外領域の光に対して透過率の高い顕微鏡は市販されていないため、自作を行った。可視光領域だけでなく、波長900 nm ~ 1600 nmの光に対して高い透過率を持つレーザー走査顕微鏡の作製を行った。また、その波長に感度を持つInGaAsカメラを取り付け、キセノンランプ励起で観察可能な顕微鏡を構築した。 2. 市販のNaYF4:Er,Ybのナノ粒子を用い、上記顕微鏡にてイメージングを行った。 NaYF4:Er,Ybナノ粒子は1540 nmのレーザー励起により550 nmと670 nm付近のアップコンバージョン発光を示す。本発光過程は多光子発光であり、イメージングすることで空間分解能が向上することが期待され、実験により確認することができた。また、励起光に変調を加え、ロックイン検出することで、さらに空有感分解能を向上させることに成功した。 3. Y2O3:Ybのナノ粒子を作製し、上記顕微鏡にてイメージングを行った。980 nm励起により1030 nmの発光を確認することができ、イメージングに成功した。また、ナノ粒子中のYbイオンの濃度が1030 nmの発光強度に影響を与えるため、Ybイオンの濃度変えながら粒子を作製し、発光輝度の高くなるYb濃度を決定した。さらに、得られたナノ粒子を細胞へ導入し、980 nm励起により細胞のイメージングに成功した。 4. NaYF4:Er,Ybのナノ粒子で染色した細胞をマウスに移植し、 第二近赤外領域の光を用いてin vivoイメージングに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度(H29年度)は第二近赤外領域の光に対して透過率の高い顕微鏡の作製、希土類添加NaYF4ナノ粒子プローブを用いた高分解能イメージング、in vivoイメージングを達成した。当初の予定では、初年度にはプローブの高輝度化を目指していたが、希土類添加NaYF4ナノ粒子プローブの市販が開始されたため、自作プローブの高輝度化の計画は実行せず、先に二年目の計画であった顕微イメージングとin vivoイメージングを成功させた。順序が逆転してしまったが順調に進んでいるといえる。さらに、上記だけではなく、申請時の計画にはなかったアップコンバージョンを用いた高分解能イメージングまで成功したので、当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度(H29年度)は顕微鏡の作製に成功したため、今年度は1. 高輝度なナノ粒子プローブの作製と、2.移植細胞のin vivoイメージング、3.低侵襲レーザーによるイメージングを主なターゲットとして研究を行う。 1. NaYF4に希土類を添加したプローブは高輝度で、第二近赤外領域の光による励起が可能であり、また、その領域の発光を示すが、市販されているプローブは希土類イオンの種類やその濃度が固定されている。さらなる高輝度化や、波長の選択性を考慮すると、申請者らが作製する必要がある。作製のための装置類は準備できているので、希土類添加NaYF4プローブの作製を行う。この時、様々な希土類イオンを導入し、第二近赤外領域において様々な発光波長を持つNaYF4プローブを作製する。さらに、希土類イオン濃度を調整することで高輝度化も行う。 2. 昨年度に引き続き、希土類添加NaYF4プローブで染色した細胞をマウスに移植し、in vivoイメージングを行う。この時、観察できる最低の細胞数などを評価する。 3. 波長915 nmレーザー光は水による吸収が少ないために、細胞に与える熱ダメージが低い。Ybイオンが添加されたナノ粒子は915 nmの光を吸収し、1030 nm付近の発光を呈する。波長915 nmのレーザーを用いたイメージング技術を確立することで、低侵襲な生体深部イメージング技術を実現する。
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