研究課題
アルツハイマー病(AD)に代表される脳神経疾患を効果的に治癒するためには、血液脳関門(BBB)と呼ばれる生体内バリアを通過するだけでなく、脳実質部において、標的とする細胞、もしくは病因物質にのみ認識されることが必要不可欠である。前年度までに、BBBを通過するための1stリガンド(グルコース分子)に加えて、BBB通過後の脳実質内での挙動制御を目的とする2ndリガンドとして、ニューロンに多く局在しグルタミン酸を取込むグルタミン酸トランスポーターを標的としたグルタミン酸リガンドを表面に搭載したデュアルリガンド搭載高分子ミセルを構築することに成功している。当該年度は2ndリガンドとして上記のグルタミン酸誘導体リガンドに加え、ファージディスプレイ法により探索した運動ニューロン選択的に認識するペプチドを搭載した直径30 nmほどで単分散な高分子ミセルを構築することに成功した。特にペプチドを搭載した高分子ミセルについては、研究計画書に基づき、核酸医薬であるsiRNAを搭載した高分子ミセルを開発した。ここではニューロンに多く発現し、AD発症に関係すると言われるアミロイドベータ(Aβ)産生に関与するβ-セクレターぜ(BACE1)の発現を抑制するsiBACE1を搭載し、(1) グルコースなし、(2) グルコースのみ (1stリガンドのみ)と比べ、(3) グルコース+ペプチドリガンド (デュアルリガンド)を用いた場合に、標的とするタンパク質の発現を優位にノックダウンすることに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
高分子の精密な分子設計からin vitro及びex vivoでの機能評価、さらにはアルツハイマー病モデル動物を用いた治療効果の検討へと展開される本研究計画において、下記の特筆すべき成果を得ることに成功した。(1) BBB通過に必要なグルコース分子(1stリガンド)に加え、ファージディスプレイで探索した運動ニューロン選択的に認識するペプチド(2ndリガンド)を表層に搭載した直径30 nmで単分散なデュアルリガンド搭載高分子ミセルを開発することに成功した。(2) 当初の計画を前倒しして、核酸医薬(siRNA)を搭載したデュアルリガンド搭載高分子ミセルを開発し、in vivoにおいて標的とするタンパク質の発現を、既存技術と比べ優位に抑制することに成功した。
「現在までの達成度」に記述した様に、本研究は当初の計画以上に進展していると自己評価される。最終年度となるH31年度はについては、計画書に基づき、アルツハイマー病モデルマウスを用いて核酸医薬を封入したデュアルリガンド搭載高分子ミセルの機能評価を中心に実施する。具体的には、(1) 前年度までに調製に成功したグルコース/ペプチドをリガンドとして表層に修飾したデュアルリガンド搭載高分子ミセルを用いて、アルツハイマー病モデルマウス(APP/PS1)を用いて、血中での安定性や臓器分布、特に脳への集積量をマルチプレートリーダー等を用いて確認する。(2) 全身投与による各種標的細胞への取り込みをin vivo共焦点顕微鏡などを用いて評価する。その際にニューロンにおいてGFPを発現する遺伝子組み換えマウスを用いて評価することで、in vivoにおいてリアルタイムでナノ粒子の挙動を評価することを検討する。
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