研究課題/領域番号 |
17H04744
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
長濱 宏治 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (00551847)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナノゲル / ドラッグデリバリーシステム / 細胞核 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、核輸送タンパク質であるインポーチンに倣った分子設計により、核移行性をもつナノゲルを開発した。具体的には、Dextranの側鎖にフェニルアラニンエチルエステルを結合した両親媒性分子を合成し、疎水性相互作用により自己組織化させることでナノゲルを作製した。このDexPheナノゲルをエレクトロポレーションにより細胞質に導入すると、速やかに核内に移行する。一方、DexPheナノゲルをDDSキャリアとして応用する場合、エレクトロポレーション法は好ましくなく、自発的な細胞取り込みによりナノゲルを核移行させる必要がある。しかし、DexPheナノゲルはエンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれるものの、エンドソームから脱出できないことが分かった。そこで、DexPheナノゲルにプロトンスポンジ効果を持たせるため、ヒスチジンエチルエステルを同じDextranに結合させると、得られたDexPhe/Hisキメラナノゲルはエンドソーム脱出能を示した。しかし、核移行性が著しく低下した。そこで、エンドソーム脱出能と核移行性の両立を目指して、フェニルアラニンエチルエステルとヒスチジンエチルエステルを異なるDextranにそれぞれ結合し、それらを混合することで複合ナノゲルにすることを考案した。複合ナノゲルは自発的な細胞取り込みの後、エンドソームを脱出した。さらに、細胞質に移行した複合ナノゲルのうち、DexHis分子は細胞質にとどまり、DexPhe分子のみが核内へ移行した。つまり、エンドソーム脱出後に複合ナノゲルからDexHis分子が離脱し、残ったDexPheナノゲルが本来の核移行を示したと考えられる。つまり、DexPhe/DexHis複合ナノゲルは、自発的な細胞核移行性をもつナノキャリアとなることが解明できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度では、ナノゲルを自発的に細胞内に取り込ませ、核移行させることを目標に設定し、研究を遂行してきた。申請時とは異なる分子設計になったものの、今年度の成果として、自発的な核移行能をもつナノゲルの開発を達成した。また、この改良ナノゲル内への物質担持手法も確立し、放出特性も明らかにした。一方、2018年度では、ナノゲルに担持した物質の細胞輸送および核内での機能発現を調べる計画であったが、ナノゲルの設計改良に時間がかかったため、本項目は遂行できなかった。以上より、本研究課題は、計画の通りおおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、核移行ナノゲルを用いた核内物質輸送による遺伝子発現・細胞機能の制御を目標に設定して、研究を遂行する。具体的には、機能性核酸および抗がん剤の核内輸送による遺伝子発現・細胞機能制御手法を確立する。抗がん剤担持ナノゲル、機能性核酸担持ナノゲル、p53担持ナノゲルを作製し、ヒトがん細胞およびがん幹細胞を用いて標的遺伝子の発現(mRNAとタンパク質の両方で解析)ならびに細胞機能を解析する。また、Runx2担持ナノゲル、MyoD担持ナノゲルを作製し、間葉系幹細胞を用いて、骨分化および筋分化について解析する。本項目では、ナノゲルによる核内輸送が遺伝子発現および細胞機能制御に有用であることを示す。 また、2019年度では、最終年度(2020年度)に向けて細胞核ドラッグデリバリーシステムを開発するための予備的実験を行う。具体的には、ナノゲルの体内動態を制御する手法を見出す。蛍光ラベル化ナノゲルをマウスに尾静脈投与、皮下投与、腹腔内投与した際の体内動態および各組織・臓器の細胞内動態を解析する。血中滞留性が低く、肝臓や腎臓などへの集積が見られる場合、ナノゲルに組織・細胞選択的なリガンドを導入する。特に、葉酸や環状RGDペプチドなど、がん細胞やがん幹細胞を標的とするリガンドを中心に検討する。また、ナノゲルの生体適合性を解明する。
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