研究実績の概要 |
動作の癖はどのように直せるのか。これは、スポーツ現場や学校教育において、競技者のみならず指導者、児童・生徒が直面する難題である。本研究は、動物モデルを用いて、動きの癖を抑制・改善するメカニズムを解明する。研究代表者の先行研究において、行動の切り替えに線条体コリン作動性介在ニューロンが不可欠であることが分かっている(Aoki et al., J Neurosci., 2015)。本研究は、同ニューロンが位置する大脳基底核およびその周辺脳領域が習慣動作の抑制に果たす役割を明らかにする。2017年度までに、線条体コリン作動性介在ニューロンの神経活動を人為的に亢進させると、習慣動作を抑制し新たな動作を獲得する能力が高まることを見出した(Aoki et al., Eur J Neurosci., 2018)。2018年度では、対象動物を遺伝学的手法の適用に優れるマウスに切り替えて実験を行った。行動課題として線条体依存的な手続き記憶(シークエンス学習)を基盤として、マウスが特定のシークエンス動作を長期間の学習を経て獲得したのちに、別のシークエンスを再学習する課題を構築した。興味深いことに、前頭前野の損傷は再学習時特異的に学習効率を減少させることを発見した。続いて、2019年度では大脳基底核の下流領域の一つである上丘の局所的損傷も再学習に特異的な障害を引き起こすことが分かった。これらの結果は、前頭前野と上丘がシークエンス動作の再学習、習慣的動作の修正に不可欠な領域であることを示唆する。さらに、前頭前野と上丘が協働的に機能している可能性を調べるため、それらが投射する脳領域を調べた結果、線条体へ強い入力をもつ視床束傍核が前頭前野と上丘のシナプス入力を受けることを明らかにした。この知見は、前頭前野と上丘からの情報が視床束傍核に集まり、シークエンス再学習を支えている可能性を示唆する。
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