研究課題/領域番号 |
17H04754
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
西島 壮 首都大学東京, 人間健康科学研究科, 准教授 (10431678)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 身体活動量 / 豊かな環境 / 海馬 / 神経新生 / 社会的交流 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、実験動物の身体活動(飼育ケージ内における自発的な移動行動)に着目し、身体活動量の多寡がどのように決定されているのか、さらに身体活動量の増加(あるいは減少)が脳にどのような適応(あるいは不適応)をひき起こすか明らかにすることである。 本研究ではこれまで、豊かな環境下(広い飼育スペース、遊具の設置)でもマウスの身体活動量は増加せず、一定の活動量を維持することを明らかにした。さらにこの現象は、マウスを集団で飼育した場合でのみ観察され、単独で飼育した場合は見られなかった。すなわち、環境変化に伴う身体活動量の変化には社会的交流の有無が関与することが明らかとなった。そこで今年度は、環境変化に伴う脳機能(海馬神経新生)の変化にも、社会的交流の有無が関与するか検討した。その結果、社会的交流がある場合(集団飼育条件)、身体活動量は増加しないものの、海馬神経新生は促進した。一方、社会的交流がない場合(単独飼育条件)、身体活動量は増加したのにも関わらず、海馬神経新生は促進しなかった。以上の結果から、身体活動量が脳機能に及ぼす影響は、単に身体活動量の絶対量に依存しないことが明らかとなった。この結果は、身体活動と脳機能の関連を明らかにするためには、身体活動を行う環境や、身体活動量の質について考慮する必要があることを示唆する。 本研究成果は、FENS2019(Belgrade, Serbia)においてBritzセッション演題として選ばれ、またInternational Sport Neuroscience Conference 2019(Teukuba)においては若手を対象としたTravel Awardを受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、豊かな環境による身体活動量の変化、およびそれに伴う海馬神経新生の変化について、極めて重要な知見を明らかにすることができ、研究を大きく進展させることができた。一部の研究が計画通りの成果をあげられなかったが、総合的に評価し、「(2)おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果をふまえ、今後は以下の課題に重点的に取り組む。 1.住環境と身体活動:これまでの研究から、マウスを豊かな環境下で飼育しても身体活動量は増加せず一定に保たれること(身体活動量の恒常性)、さらにこの身体活動量の恒常性を保つためには社会的交流(集団飼育)が必須であることを明らかにした。この現象が他の環境変化によっても再現されるか明らかにするため、「飼育環境の狭小化」により検証する。さらに、社会的交流の制御に深く関わるオキシトシンに着目し、社会的交流が身体活動量の恒常性を保つ脳内メカニズムとしてオキシトシンが関与しているのか明らかにする。 2.活動量が顕著に低下する疾病モデルの確立:脳卒中などの重篤な疾患は身体活動量を低下させる契機となり、その低下した身体活動量をいかに高めることができるかは回復期の重要な課題となる。そこで昨年度に引き続き、「身体活動量を顕著に低下させる疾患モデル」の確立を目指す。昨年度に引き続き、脳出血モデルとして知られる「ゼラチナーゼの脳内局所投与」を用いてその妥当性を確認する。そして、脳疾患に伴う身体活動量の低下が脳機能に及ぼす影響を検証する。 3.幼少期の経験と身体活動量のセットポイント:マウスの身体活動量は、あるセットポイントで恒常的に調節されている。そこで、「身体活動量のセットポイントは、幼少期の経験により決定される」という仮説を立て、検証する。具体的には、幼少期の経験を様々に操作し(豊かな環境下での飼育、社会的交流をはく奪した単独飼育、定期的な運動を行わせる)、それにより成熟期の身体活動量が変化するか、検証する。
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