研究課題/領域番号 |
17H04755
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
高倉 久志 同志社大学, スポーツ健康科学部, 助教 (20631914)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 低酸素環境 / 筋収縮 / ミトコンドリア / ミオグロビン / HIF-1α / 筋有酸素性代謝能力 |
研究実績の概要 |
低酸素環境において低酸素誘導因子(HIF-1α)は細胞内に蓄積し、血管内皮増殖因子(VEGF)やerythropoietin(EPO)の発現を促進させる。これらの因子は末梢組織への酸素運搬能を向上させるため、これらの事実を背景として持久的パフォーマンス向上を目的とした低酸素環境での運動トレーニングが行われてきた。しかしながら、HIF-1αは解糖系代謝を亢進させる側面も持ち合わせており、エネルギー代謝の観点から必ずしも持久的運動にとって有益でない影響を及ぼす可能性が考えられた。そこで、本年度では擬似的低酸素環境下での筋収縮が筋有酸素性代謝能力を担う因子に及ぼす影響について検討した。 実験にはC2C12細胞を用いた。塩化コバルトによって低酸素環境を模擬し、48時間の低酸素刺激を行った。筋収縮は、電気刺激装置を用いて低酸素刺激培養中の最後の1時間で実施した。実験群を常酸素群、常酸素+筋収縮群、低酸素群、低酸素+筋収縮群の4群に分けて、各群におけるHIF-1α、VEGF、ミオグロビン(Mb)、ミトコンドリア関連因子(Atp5b)のmRNA発現量を測定した。その結果、HIF-1α mRNA発現量は低酸素のみの刺激によって増加傾向を示し、筋収縮のみの刺激によって減少傾向を示した。VEGF mRNAとAtp5b mRNAの発現量は筋収縮刺激の有無に関わらず低酸素群で有意に高値を示した。Mb mRNA発現量は、筋収縮刺激の有無に関わらず低酸素群で有意に低値を示した。 薬理刺激による低酸素環境の模擬によってVEGF mRNAとAtp5b mRNAの発現量が増加した事実は、実際の低酸素トレーニングにおいても工夫次第では薬理刺激で得られたような応答と同様の応答を獲得できる可能性を示唆しているかもしれない。今後はより生理学的な環境に近い低酸素環境で実験を実施する必要があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度においては、C2C12細胞を用いて低酸素環境と筋収縮刺激の組み合わせが筋有酸素代謝に及ぼす影響を細胞外からの酸素供給能力、筋細胞内酸素運搬能力、筋細胞内酸素利用能力の3観点から検討する予定であった。低酸素環境は培養環境の酸素濃度を減少させることによって作り出す計画をしていたが、実験環境のセットアップに時間を要してしまったため、まずは薬理刺激によって安定的な低酸素模擬環境における低酸素と筋収縮の組み合わせが筋有酸素代謝を担う因子に及ぼす影響を検討することに変更した。当初の計画では、薬理刺激によって得られた実験結果に基づきながら、酸素濃度の調節による低酸素環境と筋収縮刺激の組み合わせが上記の3観点に及ぼす影響を検討するところまでを到達目標としていたが、そこまで到達できなかったため、達成度をやや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度得られた実験結果を基にしながら、酸素濃度の調節による低酸素環境と筋収縮刺激の組み合わせが筋の有酸素代謝能力に及ぼす影響を検討する予定である。また、電気刺激によって培養細胞の筋収縮が確実に引き起こせているかどうかを確認するために、先行研究で報告されている筋収縮によって活性化される転写因子の測定を実施する。また、本研究計画においては、培養細胞での実験結果を踏まえて、その後に実験動物を用いた低酸素環境での持久的トレーニングの効果を検討することを計画していたものの、研究体制の充実により実験動物を用いた実験も同時並行で実施することが可能となった。したがって、培養細胞を用いた実験と同時並行で、in vivoレベルでの低酸素環境における持久的トレーニング効果の検証も行うことを考えている。
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