本研究課題では、運動トレーニングによる酸素利用能力への効果を維持したまま、低酸素環境特異的な適応を得られるようなトレーニングプログラムを開発することを目的としている。これまでは細胞内での酸素利用系に対する影響を中心に検証してきたが、本年度は細胞外からの酸素供給能力への影響について焦点を当てて検証を行った。 被験動物には9週齢のWistar系雄性ラットを用いた。まずは、暴露時間の異なる慢性的な12%O2低酸素暴露が赤血球数(RBC)およびヘモグロビン(Hb)濃度に及ぼす影響について検討した。低酸素暴露時間は1日あたり3時間、または24時間とし、暴露期間は9週間とした。その結果、1日あたり3時間の低酸素暴露であっても低酸素暴露されてない対照群と比較して、RBCやHb濃度が増加した。次に、低酸素暴露と持久的トレーニングを組み合わせることによって、コントロール群(Con群)、低酸素環境下で持久的トレーニングを実施する群(TUH群)、持久的レーニング後に低酸素曝露する群(HAT群)、常酸素環境下での持久的トレーニング群(TUN群)といった実験群を作成し、同様にRBCやHb濃度に及ぼす影響を検証した。低酸素暴露および持久的トレーニングの介入期間は9週間とし、使用した酸素濃度はTUH群では15.4%O2とし、HAT群では12%O2とした。介入期間後にRBCとHb濃度を各群間で比較したところ、どの群間にも有意差が認められなかった。したがって、低酸素暴露が単独で用いられた場合には3時間という短時間の低酸素暴露であっても酸素供給能力を向上させる可能性が示唆されたものの、持久的トレーニングと組み合わせることによって低酸素暴露による酸素供給能力向上効果が相殺される可能性が示唆された。
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