研究課題
ヒト研究から、攻撃性と血中の炎症系サイトカインとの相関が報告されている。しかしながら、免疫系がどのように神経系の働きに作用することで攻撃行動に影響を与えるかのメカニズムはほとんど分かっておらず、それどころか過剰な攻撃行動に関わる神経回路自体も探索段階である。本研究では、雄マウスを用い、背側縫線核(DRN)を含む神経回路がどのように免疫系によって影響をうけ、その結果攻撃行動の個体差を生み出したり、過剰な攻撃行動を引き起こすのかを明らかにすることを目指すものである。本実験から、攻撃性の異なる個体における脳内サイトカインの測定を行ったところ、DRNにおけるインターロイキン1β(IL-1β)の量が異なることが明らかとなり、攻撃行動が高い個体ほど、IL-1βレベルが低かった。そこで、DRNにおけるIL-1βが攻撃行動にどのような影響を持つかを、薬理学的操作によって検討したところ、IL-1β受容体を阻害することによって攻撃行動が増加することが明らかとなった。同様に、shRNAを用いた局所的な遺伝子発現抑制実験からも、DRNのIL-1β受容体の発現低下によって攻撃行動が増加することが明らかとなった。更に、これらの操作によってセロトニンニューロンの活動が変化することも明らかとなった。このことから、DRNにおける内在性のIL-1βが、攻撃行動に抑制的な役割を持っていることが示された。引き続き、DRNからのどのような神経投射が雄マウスの攻撃行動に関与するかについて、光遺伝学的手法やニューロントレーサーなどを用いて解析を行っている。
2: おおむね順調に進展している
DRN特異的なIL-1β受容体遺伝子ノックダウンによって、攻撃行動が変化するとともに、セロトニンニューロンの活性化にも変化が生ずることが明らかとなってきた。また、マイクロダイアリシスを用いて、攻撃行動中にDRN内のIL-1β放出が変動するかの検討も始め、こちらも興味深い傾向が観察されてきている。
1)攻撃行動中のサイトカインの脳内放出量を、マイクロダイアリシス法を用いて測定する2)背側縫線核からの特定の神経投射が攻撃行動中に活性化しているかの解析を、トレーサーとファイバーフォトメトリー法を用いて行う3)遺伝子ノックダウンの手法を用いて、DRNのIL-1β受容体のノックダウンによって、攻撃行動中のDRNセロトニンニューロンの活性がどのように変化するかを検討する4)過剰な攻撃行動を示すMSM系統の血中と脳内のサイトカイン量を、攻撃行動が低いC57BL/6J系統のものと比較することで、過剰な攻撃性に関わる免疫系応答の変化を調べる。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
The Journal of Neuroscience
巻: 38 ページ: 5913-5924
10.1523/JNEUROSCI.0296-18.2018
https://www.tsukuba.ac.jp/notes/097/index.html