研究課題/領域番号 |
17H04773
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
江畑 冬生 新潟大学, 人文社会科学系, 准教授 (80709874)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | チュルク諸語 / サハ語 / トゥバ語 / 記述言語学 / 対照言語学 / 主題 / 複統合性 / 統語的派生 |
研究実績の概要 |
2019年度には,周辺の系統の異なる言語も視野に入れた対照を通じて,北東ユーラシアチュルク系諸言語の共時的側面と通時的変遷に関して主として3つの側面から研究を行った.第1に,サハ語とトゥバ語の主題マーカーの用法を対照した.第2に,サハ語とトゥバ語の形態法における膠着性・複統合性の性質を,他の北東ユーラシア諸言語と対照することで明らかにした.第3に,サハ語文法の全体像を,類型論的特異性と系統的・地理的特質の両面からまとめた.本年度における具体的な研究成果は以下の通りである. 1. 2019年4月に新潟大学において国際ワークショップ「北東ユーラシア諸言語の記述と対照3」を主催した. 2. 2019年8月にトゥバ共和国クズル市においてトゥバ語の現地調査を行い,トゥバ語の主題マーカーおよび派生形態法に関する言語データを得た.同時に,現地出版物の収集を行った. 3. 現地調査の成果に基づき,2019年11月の日本北方言語学会第2回大会において口頭発表を行った.また2019年12月の韓国国語学会60周年記念冬季学術大会で招待講演を行った. 4. 2019年度に刊行された論文2編では,次のことについて論じた: [1] サハ語とトゥバ語のいわゆる主題マーカーの用法を対照し,両言語ともに主題というよりは対比の用法が中心であることを確認した.[2] 北東ユーラシアチュルク諸語の膠着性と複統合性の度合いを周囲の非同系言語との対照により検証し,サハ語とトゥバ語は複統合的言語とは言えない一方で形態法上の特質として統語的派生が見られることを指摘した. 5. アウトリーチ活動の一環として,リレー講演「北の先住民言語―北東アジアから北米まで」(富山大学)においてアルタイ諸語とその文化に関する講演を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1. 研究課題の当初計画に基づきトゥバ語の現地調査を遂行し,言語データを得るとともに現地出版物を資料として収集することができた. 2. 研究成果として,国内学会での成果発表3件,国際学会での成果発表2件,海外学会での招待講演1件を行った.また学術雑誌に論文2編が掲載された(うち1編は査読あり). 3. アウトリーチ活動の一環として,富山大学のリレー講演において「アルタイ諸語」と題する講演を行った. 4. 2019年4月に新潟大学において国際ワークショップ「北東ユーラシア諸言語の記述と対照3」を開催し,国内の研究者に加えロシアおよび韓国の記述言語学・対照言語学の専門家8名を招聘することにより有意義な意見交換をすることができた. 5. 成果物として2020年3月に単著『サハ語文法: 統語的派生と言語類型論的特異性』を刊行することができた.
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画の最終年度となる2020年度には,トゥバ語の現地調査に加えてハカス語の現地調査を行う予定である.昨年度に引き続き,サハ語・トゥバ語・ハカス語のコーパス資料拡充に努めるとともに現地出版物の収集も行う.本研究課題の総括として,古代チュルク語と現代チュルク諸語北東グループの音韻規則・形態統語法を比較し,これら諸言語の相互接触による歴史的変遷の解明を試みる.2020年11月には,日本北方言語学会の国際シンポジウムにおいて口頭発表を行う予定である.また2020年12月には,韓国国語学会が主催する世界韓国語学者会議において招待講演を行う予定である.年度末までには,査読誌への論文投稿による研究成果公開を進める予定である(The Turkic Languages. vol.22,『北方人文研究』第14号,『北方言語研究』第11号などへ投稿予定).
|