今年度は、島根県松江市鳥ヶ崎遺跡において4度目となる発掘調査を実施した。前年度までは遺跡の東側を重点的に調査してきたが、今年度は関連研究の動向をふまえ、遺跡の西側にトレンチを設定した。第三系直上に堆積するとされる、砂礫層の検出と石器出土の有無を調査の主眼に置いた。その結果、一方のトレンチにおいて、黒曜岩製チップ等が数点出土したほか、他方のトレンチにおいて玉髄製石器や石英製石器が数点出土した。後者はこれまで鳥ヶ崎遺跡近傍で採取され、注目されていた資料群と同種のものと判断される。これらを堆積物中から回収できた点が重要であるが、斜面堆積物の層序対比や年代決定が困難で、その年代決定には至っていない。これらの現地作業と並行して、1990年代の発掘調査で出土した遺物を観察し、鳥ヶ崎遺跡における土地利用の変遷を考える手がかりを得た。 関連する遺物として、名古屋市博物館所蔵の加生沢遺跡(愛知県新城市)の出土資料を熟覧した。携帯型蛍光X線分析装置による石材の化学組成調査を実施し、特に小形資料の評価に関わる所見を得た。 後期旧石器時代初頭の遺跡・石器群の調査も実施し、宮崎県山田遺跡の資料群を観察した。また京都府上野遺跡において、出土資料の観察、原産地推定のための成分分析、帯磁率測定にもとづく年代決定を実施した。 今年度は、研究初年度から取り組んできた、石器の破壊力学的研究に関する書籍の作成作業を完遂できた。同書は2020年4月に、京都大学学術出版会から出版された。
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