本研究の目的は、労働市場における制度や政策が賃金格差の抑制に果たす役割を検証することである。本研究では、近年多くの国でその役割が期待されている最低賃金に特に焦点を当て、労働市場制度が賃金格差に影響を与える仕組みを実証的に分析する。 賃金格差には、異なる属性を持つ労働者の間の格差と同じ属性を持つ労働者の中の格差の二種類がある。具体的には、前者は例えば学歴間格差や年齢間格差や男女間格差のことであり、後者は例えば同じ学歴で同じ年齢で同じ性別の労働者の中での格差のことである。通常、前者の格差は技術進歩や労働力の構成や差別に起因すると考えられ、後者の格差は制度に起因すると考えられている。その二つの格差のどちらも賃金格差の拡大に寄与していることは知られているが、その二つの格差の趨勢のどの程度が最低賃金に起因するのかは知られていない。 本研究の貢献は、最低賃金が賃金格差に与える影響を、異なる属性を持つ労働者の間の格差に与える影響と同じ属性を持つ労働者の中での格差に与える影響に分けて測定することである。つまり、本研究では、最低賃金が学歴間格差や年齢間格差や男女間格差に与える影響と、最低賃金が同じ学歴で同じ年齢で同じ性別の労働者の中の格差に与える影響の両方を測定する。さらに、その際には、従来の分位点回帰の手法を改良することによって、どちらの格差も平均だけではなく分位点ごとに測定する。それにより、最低賃金が賃金格差に影響を与える仕組みを定量的に評価する。
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