近年格差拡大に対する懸念が高まるにつれて、労働市場制度が格差抑制に果たす役割に対する期待が大きくなってきている。しかし実際のところ、過去数十年間に渡り労働市場制度は賃金格差の抑制にどの程度寄与してきただろうか。本研究では、最低賃金をはじめとする労働市場制度が賃金格差の抑制に果たしてきた役割を検証する。賃金格差には、異なる属性を持つ労働者の間の格差と同じ属性を持つ労働者の中の格差の二種類がある。前者は学歴・年齢・男女間の格差のことであり、後者は同じ学歴で同じ年齢で同じ性別の労働者の中の格差のことである。先行研究では、前者の格差は技術進歩や労働力の構成や差別に起因すると考えられ、後者の格差は観察できない能力や制度に起因すると考えられている。本研究では、分位点回帰の手法に基づいて、前者を分位点ごとに異なる属性を持つ労働者の賃金の違いから測定する一方で、後者を同じ属性を持つ労働者の賃金の分位点間の距離から測定する。それにより、最低賃金の引き上げが最低賃金で働く労働者だけでなく最低賃金よりも高い賃金で働く労働者の賃金にどの程度波及するか知ることができる。さらに、最低賃金が賃金方程式の係数に与える影響を分位点ごとに推定すれば、最低賃金が二種類の賃金格差に与える影響を検証できる。本研究では、最低賃金の変化が学歴・年齢・男女間格差の趨勢にどのような影響を及ぼし、同じ学歴で同じ年齢で同じ性別の労働者の間の賃金格差にどのような影響を及ぼしたか定量的に評価した。
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