本研究課題では、ベイズ統計的アプローチを活用して、心理学における種々のデータについて、その生成メカニズムを適当に表現できるモデル開発を行い、またとくに二次データを中心とした実データのモデリング、再分析を行った。データ分析において、モデリングの考え方を従来よりも中心に位置づけることを通して、心理学研究の理論化を進め、研究の再現性向上に貢献することを目指して研究を実施した。 本年度査読付き論文等で報告した主要な成果として、第一に、本研究課題で扱ってきた再現性とモデリング、ベイズ統計の関わりに関する知見を岡田(2021)の論文にまとめるとともに、その内容を複数の学会における講演等で報告した。第二に、先行研究の項目反応と回答時間を含む心理調査データの、拡散過程モデルによる再分析を行い、回答時間の生成過程を考慮したモデルを用いた方が信頼性が高くなることを示した。本結果はOkada & Bunji (2020)として出版された。第三に、補償型と非補償型の項目反応を同時に表現し、両者の程度を項目の特徴のひとつとして推定できる新たな認知診断モデルを開発し、これを用いて国際的な数学の達成度評価テストデータの再分析を行って、提案モデルの説明力の高さや、項目間の異質性などを見出した。本結果はYamaguchi & Okada (2020a)にて出版された。第四に、離散的な認知アトリビュートを想定した、一般的なクラスの認知診断モデルの変分ベイズ推定法を提案し、これを用いて先行研究で実施された英語への熟達を測定する認知診断テストデータの再分析を行い、異なる推定法による結果の違い等を報告した。本結果はYamaguchi & Okada (2020b)にて出版された。これら以外にも査読付き論文を発表し、また本研究課題に関連する最新の結果や提案を国内外の学会等で発表した。
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