研究課題/領域番号 |
17H04790
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
番 浩志 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報通信融合研究室, 研究員 (00467391)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 立体視 / 視知覚 / 神経科学 / fMRI / 心理学 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒト脳内背側・腹側の視覚野のどのような情報処理・連絡によって「3D(3次元、立体)」物体が表象・処理・同定されているのかを解明し、ヒト脳内の「3D特徴処理マップ」を完成させることを最終目標とする。 2018年度は特に、英国・ケンブリッジ大学、ベルギー・KU Leuven大学、米国・ハーバード大学の研究者らと実施してきた共同研究をまとめ、その成果をPLOS Biology誌にて発表することができた。 ヒト3D知覚の特性を理解し、立体視になぜ腹側・背側をまたぐ複数の視覚野の働きが必要なのかを明らかにするためには、立体視が可能なヒトに近い霊長類の脳とヒト脳との比較が有効である。本実験では、申請者が2012年に発表したヒト脳機能イメージング実験で用いた課題を利用し、2つの3D手掛かりを統合する際のヒトとサルの脳活動の類似・差違を調べるfMRI実験を行った。ヒトの計測は本課題代表者が担当し、サルの計測は、ベルギー・KU Leuven大の学生および米国・ハーバード大学のWim Vanduffel教授のグループが行った。比較の結果、同じ奥行き手掛かりを持つ刺激に対して、サルでは主に運動視を処理する領野であるMTで統合が行われ、ヒトではV3Bで統合が行われることが明らかになった。これは、ヒトからサルへの進化の過程で視覚領野の機能分化が進んだことを示唆している。今後、この種間の差を「脳内3D特徴処理マップ」作成に反映させたい。 その他、大阪大学大学院・生命機能研究科のグループらと共同で、両眼視差から計算される奥行きが反転して知覚(遠近から近遠を知覚する)される刺激事態に対するfMRI脳活動を計測し、奥行きの反転と脳活動との対応を調べることで脳が両眼にそれぞれ入力された情報の対応(不良設定問題となる)をどのように解決しているか、そのメカニズムを明らかにするための研究を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H30年度は、本研究の目標の1つであった3D手掛かり統合脳部位の種間比較を行い、その成果を国際誌に発表することができた。また、奥行き反転知覚刺激に着目した新しい研究を開始することができた。現在、取得したデータの解析を進めている段階である。さらに、3D自然風景写真に対するfMRI脳活動を計測し、複数の3D手掛かりの背側・腹側視覚野をまたいだ統合過程を調べる研究も基礎データを収集することができた。これら の状況より、4年間の研究期間の2年目として、研究課題は当初の予定通りに進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度後半から、3D自然風景写真を観察中のヒトfMRI脳活動を計測する研究を開始した。従来の3D研究では、厳密に統制されたランダム・ドット・ステレオグラム刺激が伝統的に用いられてきた。しかし、実際にヒトが目にする光景はより複雑なものである。3D自然風景写真を刺激として用いることで、この両者の差を埋めて、より自然な普段の視覚経験に近い形で、さらに、より多数の3D手掛かりが同時に与えられた際の脳活動を計測することが可能となる。R1年度は、この研究をさらに進め(脳活動の計測および眼球運動計測を行う予定である)、より複雑な視覚経験時に腹側・背側経路の各視覚野がどのように手掛かりを統合しているのかを明らかにするfMRIおよび眼球運動計測実験を実施する予定である。また、H30年度に実施した研究成果をまとめ、論文として発表する予定である。
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