本研究は、ヒト脳内背側・腹側の視覚野のどのような情報処理・連絡によって「3D(3次元、立体)」物体が表象・処理・同定されているのかを解明することを目的とする。従来の研究では物体同定・認知研究と3D情報処理研究は区別されて研究が行われてきたが、本研究では両者の統合的理解を目指す点に特色・独自性がある。R3年度もコロナ禍の影響が続いたため、実験の実施には困難が伴ったが、主な業績として、当初計画していたとおり、リバイスを進めていた論文がアクセプトされ、eNeuro誌に発表することができた。この研究では、顔(知識として立体構造を知っている物体)の3D形状を刺激として用いて、その顔の細部の凹凸(=文脈)の変化が、その物体の奥行き方向の配置位置(大きな奥行き構造)の知覚に影響を及ぼすかを検証した。その結果、顔のようななじみのある物体に対しては知識の影響を排除できず、顔の凹凸が異なるとその顔の配置された奥行き位置の知覚がモジュレーションを受けることを発見した。これは、奥行き情報が単純なボトムアップ処理でのみ計算されるのではなく、トップダウン処理も重要であることを示している。また、fMRI計測により、この知識による影響は、顔処理に関連する紡錘状回の活動によるものであることが示唆された。このほか、fMRIを用いて両眼視差情報が視覚野の階層的な処理に沿って処理される様態が2つのモデル(両眼情報相関モデルと両眼情報マッチングモデル)でうまく説明できることを示した。特に、初期の視覚野では相関モデルによる情報処理が優勢であるが、処理が進むにつれてマッチングモデルに基づいた情報処理の寄与率が高くなることが明らかになった。ただし、相関モデルが利用されなくなるわけではなく、両モデルの相補的な働きによって立体視が成立することが分かった。現在、国際誌への発表に向けてデータをまとめ、論文を執筆中である。
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