研究課題/領域番号 |
17H04792
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
釜本 健司 新潟大学, 人文社会科学系, 研究教授 (10435208)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 公民教育史 / 判断力 / 主権者教育 / 公民教育 |
研究実績の概要 |
今年度の研究は,1920年代から1950年代の政治に関する教育で育成が意図された政治的判断力の様相とその史的展開を検討することにより,中等公民教育における政治的育成の日本的特質の一端を把握したものとしてまとめることができる。それは,次の三点の内容をもつものであった。 一点目は,戦前期の日本における中等学校の公民関連諸科目の教授内容にみられた判断力の様相に関する研究である。具体的には,1920年代から1930年代にかけての法制及経済と,成立期の公民科という2つの学科目教科書における「地方自治」の記述内容と構成の分析を通して,地方自治や地方の政治について,どのような判断の形成を意図していたかを分析し,学会発表を行なった。 二点目は,成立期を中心とした中等社会科の教授内容にみられた判断力の様相に関する研究が挙げられる。この内容について,今年度は,①社会科成立時の中等学校段階の一般社会における政治学習のもとでの判断力・批判力,②政治に関する内容のうちの「世論」に関する内容にみられた判断力,③情報を読み解く学習および対立する政治的・社会的問題に対する意思決定を行なう学習のもとでの政治的判断力の3つの対象を検討した。その検討は,それぞれについて,どのような判断力の育成が意図されていたかを考察するものであった。 三点目は,前年度に引き続き,戦前期から現在に至るまでの公民教育史に関する資料調査を行ない,関連資料を手広く収集しえたことである。今年度は,主に公民教育目標論・方法論やその研究方法,および公民科や社会科をはじめとする社会系教科の教員養成・教師の力量形成にかかる資料を収集・分析しえた。このような調査が実施できたことで,日本の中等学校における公民教育史を広い視野から把握できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
このように評価した理由は,次の三点にある。一点目は,2018年度中に,戦前から戦後にかけての日本の中等学校における政治に関する内容にみられる判断力の様相に関する史的展開の考察を,ある程度手がけられたことが挙げられる。 二点目は,2017・2018年度の研究で,日本における公民教育・社会科教育の歴史的展開に関する充実した文献研究を行なうことができ,2019年度以降の研究への足がかりを作ることができたためである。 さらに,三点目として,中等段階の社会科・公民科が抱える今日的な理論的・実践的課題と関わらせる形で,日本の公民教育における判断力育成の特質を学習内容・学習方法の両面で検討できたことが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度以降は,主権者を育てる教育の視点から,日本の中等学校における公民教育の史的展開について,さらに検討を続け,これまでの研究成果を深めていく。また,政治的判断力・社会的判断力のそれぞれについて,政治学,社会学,教育学などの関連する諸分野の知見をも援用しつつ分析・検討を手がける。なお,その際,今後は,次の二つの視点からなる研究の展開を考えている。一つ目は,公民科・社会科を教える教師の力量形成やその歴史的展開といった視点でも検討を深め,これまでの中等公民教育育成しようとしてきた政治的・社会的判断力の様相をとらえる研究を進める。 二つ目は,公民科や社会科などの教科の全体構造を社会科教育史的視点から考察する中で,これらの教科で判断力の育成がどのように位置づけられてきたかを検討する。 なお,こうした研究を進める際には,政治や社会のものごとに対する批判力との関わりについても検討していく。 ここまでに述べた研究を進めることで,中等学校の公民教育における政治的・社会的判断力の日本的特質を析出し,今後の日本の中等学校における社会科・公民科で育成をめざす政治的・社会的判断力の構造を,学習評価と関わらせる形で提案していく。さらに,それとともに,政治的・社会的判断力の育成に焦点をあてるカリキュラム・授業の開発と実践にかかる教師の力量や,それを取り巻く諸条件についても歴史的分析を手がかりとして解明していく。
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