最終年度の研究は,戦前期から現在にかけての公民教育で育成が意図された社会的判断力の様相とその特質を検討するとともに,本研究課題において実施した一連の研究の社会科教育史としての位置づけをその研究方法上の特質とともに検討したものとしてまとめることができる。具体的な研究成果は次の三点にまとめられる。 一点目は,戦前期の日本における中等学校の公民科の教授内容にみられた判断力の様相に関する研究である。具体的には,実業補習学校において公民科が特設されるようになった1920年代から1940年代にかけての公民科の教授要項・教授要目と教科書における「公衆衛生」「社会改善」の記述内容と構成の分析を通して,社会的課題やそれに取り組むための制度およびその制度を支える理念の内容を教授することで,どのような判断力の形成を意図していたかを分析し,学会発表を行なった。 二点目は,中等社会科成立期の教授内容にみられた社会的判断力の様相に関する研究がである。この内容については,中学校段階および高等学校段階の一般社会科における「私法」の取扱いに関する学習指導要領や教科書記述の構成と内容の分析を通して,これらの内容に関する学習で育成がめざされた判断力・批判力の特質を考察し,学会発表を行なった。 三点目は,近年における社会科教育史研究の学術論文のもつ研究領域や方法論の特質を検討した研究である。この研究の中で,本研究課題期間中に実施した申請者の研究の方法論的特質を析出しえた。 また,前記の研究を手がけ,研究課題全体のまとめを行なうための資料調査についても,戦前期から戦後にかけて時期を広くとって追加的に実施できた。このような形で,それぞれの時代の公民教育を担った教科のもとでの政治的・社会的判断力育成の様相に関する考察について,領域を広めつつ,精緻化させることができた。
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