近年,教育学の分野では,効果的な指導を行うために,科学的根拠に基づいた教育の重要性が世界的に高まっている。こうした教育の実現には,学習時と指導時における思考過程や思考負荷の関連が可視化される客観的なデータが必要となり,視線計測と脳活動計測の生理学的手法は有用性が高いものであると考えられる。本研究の目的は,学習者と指導者双方の視線と脳活動の同時計測によって,学習と指導の関係を生理学的観点から明らかにすることで,効果的な算数・数学の指導を検討することである。 本年度は,「指導者」「学習者」の視線・脳活動の特徴の解明を目的として,計算課題の実験実施を目指した。1人が「指導者」役,もう1人が「学習者」役として,大学生2人がペアで実験に取り組む想定とした。指導者役は学習者役に適宜助言を行う役割,学習者役は助言を受けながら課題に取り組む役割とし,指導者役の助言が効果的に働く計算課題の内容と助言方法の設定を検討した。計算課題の内容としては,虫食い算,文章問題,数列問題を候補に取り上げ,予備実験として視線移動計測を行った。 検討の結果,虫食い算を用いて,指導者役が着目ポイントを助言として示す方法が効果的と考えられた。学習者が解決までに助言を必要とするだけの一定時間がかかるケースが多く,助言が効果的に機能する傾向にあった。また,同時に,助言にかかる時間は短く,理解を促す助言の伝わりやすさもあった。一方で,文章問題,数列問題は,解決までの時間が短かったり,助言を行う時間が長かったりし,実験課題としてはいくつかの問題点があった。
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