研究実績の概要 |
本研究の目的は、走査トンネル顕微鏡(STM)にレーザー光照射を組み合わせる事で導入される“励起の選択性”を最大限に生かして、(1)単一分子STM-フォトル ミネッセンス分光法(STM-PL)の開発及び局所エネルギーダイナミクスの解明と、(2)分子励起子(エキシトン)ダイナミクスの光制御を実現することである。 昨年度導入した波長可変レーザー(Ti:S, 波長可変域700-1000 nm)をSTMに導入する際のレーザー照射システムを改良し、精密に焦点を合わせられる機構を整えた。これにより、昨年度までの100倍近い効率でシグナルを検出することに成功した。 単一分子STM-PL分光を実現する試料としていくつかの有機分子の検討を既存の手法である電流励起のSTM発光分光を用いて行った。特に、典型的なn型有機半導体であるPerylene-3,4,9,10-tetracarboxylic dianhydride (PTCDA)は、Ag(111)上に成長したNaCl薄膜基盤に吸着すると負に帯電し、特異なSTM発光を示すことを発見した。詳細な解析の結果、帯電状態の分子にある孤立電子がもつスピンが、分子を通る電子伝導に大きな影響を与え、スピン三重項励起状態が低電圧で選択的に形成されることを突き止め報告を行った(K. Kimura et al. Nature in press)。 実験研究に並行して、理論研究者との共同研究も推進している。近接場光により誘起される光学プロセスの理論解析手法の開発に着手し、またSTM探針と基板の間に局在するプラズモンと分子の相互作用に関する理論シミュレーションやモデル計算も実施した。
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