研究課題/領域番号 |
17H04797
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
千賀 亮典 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (80713221)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 電子顕微鏡 / 電子エネルギー損失分光 / 光物性 / カーボンナノチューブ / 原子層物質 |
研究実績の概要 |
本研究では、ナノ材料の光学特性と材料の原子構造とを一対一で対応付けることを目的とした、新たな材料評価手法の開発を進めている。昨年度にナノ材料の局所的な光学特性を計測するための前段階として、材料の欠陥制御や欠陥の構造観察、電子状態の評価などを行った。本年度は昨年度の知見をもとに、電子顕微鏡内でカーボンナノチューブ、グラフェン、遷移金属ダイカルコゲナイド(MoS2、WS2等)の光学特性評価を行った。主な成果としてカーボンナノチューブ一本の定量的な光学特性の評価に成功したことが挙げられる。この研究では電子損失分光法により、励起子に起因するカーボンナノチューブの吸収ピークを測定し、これを同一試料(同一カイラリティ)から得られた光吸収スペクトルと比較することで光学定数を算出することに成功した。今回得られた結果は従来のバルク試料を前提とした理論の中で解釈するのは難しく、電子エネルギー損失分光法を用いた光学特性評価という新しい分野の可能性を示した先駆的な成果である。さらに本手法を応用し、カーボンナノチューブに存在する複数の異なる構造を持つ欠陥部から光学伝導度を計測することに成功した。これによって欠陥部における局所的な度励起子寿命を評価することが可能になり、今までブラックボックスであった欠陥と発光の関係の一端を明らかにすることができた。これは原子レベルの欠陥から局所的に定量的な光学特性を計測した世界初の成果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度にカーボンナノチューブ及びカーボンナノチューブ内部に合成した一次元材料を中心に構造制御と局所的な物性評価を行った。本年度はこれをさらに発展させ、モノクロメータで単色化した電子源を用い、カーボンナノチューブ一本から電子エネルギー損失スペクトルを得ることに成功した。また独自の解析手法からカーボンナノチューブ一本の光学定数を得ることにも成功した。さらに本手法を応用して、カーボンナノチューブに内在する欠陥一つから局所的な光学特性の変化を捉えることにも成功した。これによって本研究課題の最終目的であるナノ材料の局所的な光学特性評価の実現に大きく近づいた。大きな成果が得られた一方で、新たな課題も見えてきた。例えば電子エネルギー損失スペクトルと光吸収スペクトルを比較する際、実験条件・試料によっては選択測が異なり等価な情報として扱えないなどの問題が見えてきた。これにはさらに幅広い材料・条件での実験を進め、系統的な理解を進める必要がある。既にグラフェンや遷移金属ダイカルコゲナイドなどの原子層物質を使った計測を始めており、粒界の有無や原子層物質の積み重ね方によって光学特性が変化することが分かってきており、さらなるデータの積み重ねが必要である。また研究を進めていく中でスペクトルの波数成分やフォノンとの相互作用が現象理解に重要な役割を果たしていることがわかってきた。次年度以降はこれまでに得られた知見に加えて、吸収スペクトルの波数成分を取り出す手法を確立するとともに、フォノンとの相互作用についても詳細な検討を行っていく必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度にカーボンナノチューブ一本から、光学伝導度を計測することに成功した。さらにナノチューブに内在する欠陥一つから局所的な光学伝導度を計測することにも成功した。これによって欠陥の種類によって、励起子寿命の変化を定量的に明らかにするなど、構造と光物性の対応付けを定量的に行うことができるようになってきた。またこれまでの知見から本研究のコア技術である電子エネルギー損失分光を使った光学特性評価には、スペクトルの波数成分やフォノンとの相互作用が現象理解に重要な役割を果たしていることがわかってきた。スペクトルの波数成分に着目するためには、高いエネルギー分解能と角度分解能が必要になる。そこで今後は高い角度分解能を有する測定手法を確立し、各種材料の光学特性及び振動特性の分散関係の計測にも挑戦したい。特に従来の技術では計測できなかったグラフェンなどの原子層物質を中心に計測を進める。また前年度に新たなに導入した電子顕微鏡用試料ホルダを用い、ナノカーボン材料の状態密度の変化とそれに対応する光学特性の評価についても引き続き行っていく。さらに今後は発展的な課題としてアルカリ金属のインターカレーション等を通じて、様々な電子状態の材料から光学特性を計測し、デバイス応用に向けた幅広い知見の取得を目指す。こちらも前年度に引き続き適宜実験環境整備を行う。
|