環境・エネルギー問題に対する懸念を背景に、人工光合成に代表される光-化学エネルギー変換系への期待が益々高まっている。光-化学エネルギー変換系には基質の酸化還元を担う電子移動触媒が必要不可欠であり、特にその作動電位は、反応活性および選択性を制御する重要な因子である。この電子移動触媒の作動電位は酸化電流と還元電流のバランスに応じて変化する。光電流の大きさが光強度に依存することを考えると、常に光強度が変動する太陽光下では作動電位もそれに応じて変化する。これは二酸化炭素の固定化や窒素化合物の無害化など、複数の反応経路をとりうる光反応系において、その経路が光強度によって切り替わる可能性があることを意味する。しかし、これまで作動電位と光強度、そしてそれらに依存した反応経路の変調に関する体系的な研究は行われてこなかった。これを明らかにすることは、選択反応を進行させる光反応系の基本設計指針につながる。そこで本研究では、亜硝酸(HNO2)の光還元をモデル反応として、反応経路選択に光強度が及ぼす影響を検証した。 具体的には、光酸化サイトおよび亜硝酸還元触媒として、それぞれアナターゼ型酸化チタン(TiO2)および銅担持共有結合性有機構造体(Cu-CTF)を用い、それらを導電性基板上に配置した光電気化学反応系によって評価を行った。その結果、光強度を増加させることで、作動電位が負にシフトし、それに伴って亜硝酸還元の生成物がN2Oからアンモニアへ変化した。この現象は太陽光下の実作動条件でも確認している。本研究は、光電気化学エネルギー変換系を構築する際には、作動電位の光強度による変化を考慮することが重要であることを実験的に示している。
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