研究課題/領域番号 |
17H04799
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
楊井 伸浩 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90649740)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 光物性 / ナノ粒子 / 励起三重項 |
研究実績の概要 |
本研究では、生体透過性の高い近赤外光を可視光に変換することにより、フォトン・アップコンバージョンのバイオ分野への展開を目指している。近赤外光は生体透過性が高いが、様々な光化学反応を引き起こすにはエネルギーが小さすぎるという問題点がある。そこで近赤外光を生体内で可視光へとアップコンバージョンすることにより、イメージングや光線力学療法などへの利用を試みる。 本年度は近赤外光を可視光にアップコンバージョンする色素ナノ集合系の構築を行った。近赤外域にS-T吸収を示す独自の金属錯体を合成し、三重項増感剤(ドナー)として用いた。発光体(アクセプター)としては発光部位と親水性部位を有する両親媒性分子を合成して用いた。このアクセプターは水中でナノ集合体を形成することが分かり、このナノ集合体中にドナー分子を分散させたところ、水中において近赤外光を可視光にアップコンバージョンすることに成功した。興味深いことに、一般的に励起三重項は溶存酸素により消光されてしまうが、ナノ集合体中においては水中の溶存酸素に消光されることはなく、高い酸素バリア能を持つことを見出した。 また、金属イオンとアニオン性のアクセプター配位子を用い、結晶性の金属錯体骨格(MOF)を形成した。このMOFをナノ結晶化し、近赤外光を吸収する量子ドットと複合化した。この量子ドットーMOF複合体に近赤外光を照射したところ、可視域にアップコンバージョン発光を観測することに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の目的であった近赤外光から可視光へのアップコンバージョンを示すナノ集合体の構築に成功した。近赤外光から可視光への変換は長らく困難であったが、三重項増感剤が励起一重項から励起三重項へと系間交差する際のエネルギーロスに問題があるという気づきのもと、そのようなエネルギーロスを回避した半導体量子ドットやS-T吸収金属錯体を用いることで可能となった。しかしこれらの新しい三重項増感剤は励起寿命が短いという欠点があるが、増感剤とアクセプターナノ集合体を複合化することにより、この問題を解決した。更に、アクセプター集合体に酸素バリア能を付与することにも成功し、水中・溶存酸素共存下において近赤外光から可視光への変換を達成した。
|
今後の研究の推進方策 |
水中・溶存酸素共存下において近赤外光ー可視光アップコンバージョンを達成したが、バイオ応用に向けては材料の性能(酸素バリア能、励起光強度、効率など)を更に向上させる必要があるため、引き続き材料設計指針の確立に向け検討を続けていく。また、得られたナノ材料の細胞毒性の有無を調べ、必要に応じて化学構造や表面構造の最適化を行う。細胞実験に適した材料が得られ次第、実際の細胞を用いた光照射実験を行う。
|