研究課題/領域番号 |
17H04799
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
楊井 伸浩 九州大学, 工学研究院, 准教授 (90649740)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | フォトン・アップコンバージョン / 光物性 / 励起三重項 |
研究実績の概要 |
本研究では、空気中・水中でフォトン・アップコンバージョンを達成することにより、バイオ分野への展開を目指している。フォトン・アップコンバージョンを用いることで生体透過性の高い長波長光を短波長光に変換し、バイオイメージングや光線力学療法へ利用することが期待されているが、水中に溶存する酸素による消光が問題となっていた。 本年度は水中で分子を適切に集合化し、酸素による消光を防ぐ方法論を確立した。色素部位にアルキル鎖と末端にアンモニウム基を修飾した両親媒性色素分子を合成した。この両親媒性色素分子は水中で超分子集合体を形成するが、溶存酸素によりそのフォトン・アップコンバージョン発光は消光された。そこで脂肪酸アニオンと共集合化させたところ、最大で80%ほどのアップコンバージョン発光が酸素に消光されず、空気が飽和した水中において14.4%という高いアップコンバージョン効率を得ることに成功した。この結果より、色素周りの分子密度を高くすることにより励起三重項の酸素による失活を防ぐことが出来るという重要な知見を得た。酸素に不安定な化学種を水中で扱うことを可能にする新たな方法論になると期待される。 更に超分子集合化による水中フォトン・アップコンバージョンの概念を一般化し、より合成の容易なシンプルな系においてアップコンバージョン発光を達成することを試みた。スルホン酸を修飾した色素分子をゼラチンなどの生体高分子と界面活性剤と共集合化することにより、ヒドロゲルを得た。このヒドロゲルはゼラチンが形成する密な水素結合ネットワークにより、空気中において13.5%という高いアップコンバージョン効率を示した。ゼラチン、アガロース、アルギン酸ナトリウムなど様々な生体高分子を用いたヒドロゲルにおいて同様の空気中で安定なアップコンバージョン発光を確認し、簡便かつ一般性の高い方法であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水中において酸素による消光を防ぐための方法論を確立することに成功した。これまでの水素結合ネットワークの形成により酸素消光を防ぐという知見を更に一般化し、色素周りの分子密度を高めることが重要であるというより高次の概念を得た。これは酸素に不安定な化学種を水中で安定に扱うことを可能にする手法として、今後光化学や反応化学をはじめとした様々な分野における発展が期待される。更には空気中で高効率なアップコンバージョン発光を発現するヒドロゲルの創出に成功した。生体適合性の高い生体高分子を用いてヒドロゲルを合成していることから、今後の生体応用に向けて重要なステップとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた水中・空気中でのフォトン・アップコンバージョン発現に関する知見を駆使し、実際の生体応用に向けた研究を推し進める。近赤外光の照射により水中において可視アップコンバージョン発光を発生し、細胞の光応答を起こすことを試みる。
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