本研究では、空気中・水中でフォトン・アップコンバージョンを達成することにより、バイオ分野への展開を目指した。この目標達成において、近赤外光を可視光へと効率よく変換することは容易ではなく、水中に溶存する酸素による消光が問題となっていた。 本年度は、昨年度までに得られた近赤外―可視アップコンバージョンを可能にする方法論、および水中・空気中でのアップコンバージョン発現に関する知見を基に、オプトジェネティクスへの応用を試みた。近赤外光から可視光への変換は長らく困難であったが、我々は最近の研究において基底一重項状態から励起三重項状態への直接遷移 (S-T 吸収) を示す金属錯体を三重項増感剤 (ドナー) として用いることで、バイオ分野への応用に必要な近赤外-青アップコンバージョンを可能にした。しかし、S-T 吸収を示すドナーの三重項寿命が短いという欠点があった。そこでS-T 吸収を示すドナー分子にアクセプター分子を連結させ、より三重項寿命の長いアクセプター部位に三重項エネルギーを溜めることにより、従来より120倍も長寿命な三重項励起状態を達成した。これにより粘度の高いヒドロゲル中においても三重項エネルギーを発光色素に受け渡し、アップコンバージョンすることが可能となった。また、加熱処理によりゲルを構成するミセルの集合状態を変化させて酸素の侵入を阻害することにより、空気中においてもアップコンバージョン発光を示すヒドロゲルを開発した。青色光に応答して細胞の形を操作できる遺伝子を神経細胞に導入し、その神経細胞を播種したシャーレにアップコンバージョンヒドロゲルを浸漬して波長724 nm の近赤外光を照射したところ、発生した青色アップコンバージョン発光により神経細胞の形態を制御することに成功した。 すなわち、本研究で目的とするバイオ応用に向けた基盤的なアップコンバージョン技術の開発に成功した。
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