研究課題/領域番号 |
17H04801
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
石井 智 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (80704725)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光励起電荷 / 光熱変換 / 窒化チタン |
研究実績の概要 |
本研究で取り組む遷移金属窒化物を用いたホットキャリアエンジニアリングのうち、光励起電荷を使った光電変換では、窒化チタンナノ粒子を使った光触媒の可視活性付与を実現した。具体的には、紫外にしか活性がなく金属を含まない光触媒である炭化窒素と窒化チタンナノ粒子の複合体を化学的に作製した。この複合体の光活性を光電気化学セルを用いて評価すると、波長約700nmまで光触媒活性があることが分かった。この理由として、窒化チタンナノ粒子から炭化窒素にホットエレクトロンが注入されたことが考えられる。しかし、得られた光誘起電流の波長依存性は窒化チタンのプラズモン共鳴と一致しているわけではない。その原因として、炭化窒素と窒化チタンとのオーミックなエネルギー障壁が波長依存性に起因していることが考えられるが、詳細は今後の検討課題である。なお、本成果はACS Appl. Mater. Inter.誌に掲載された。 光励起電荷を使った光熱変換のテーマでは、窒化チタンと微細な間隙をもつセラミックウールとを化学的に結合させることで複合材料を作製した。セラミックウールは電気炉の断熱材に使われる安価な素材である。このような複合材料にすることで、窒化チタンナノ粒子の広帯域な光吸収特性とセラミックウールによる毛細管現象を同時に利用することができ、ナノ粒子の表面だけの水を行き渡らせることができる。太陽光照射による水の蒸発効率は、複合材料のほうが窒化チタンを水に分散させただけのものより20%以上高い値を示した。本成果は、ACS Sustainable Chem. Eng.誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先述の通り光電変換のテーマも光熱変換のテーマも昨年までの成果を順調に発展させることができた。光電変換のテーマでは、光励起されたホットキャリアを光触媒に応用し、それを評価するための実験系は準備し、目論見通り窒化チタンナノ粒子からの光励起電荷を光触媒の可視活性に応用することができた。関連する論文を1報出版し、来年度も更に論文投稿を予定している。また本成果に関連した招待講演を国内外合わせて3件行った。 光熱変換のテーマで行った複合材料の開発は、セラミックウールに窒化チタンナノ粒子を化学的に結合させる際に、凝集することによって光熱変換特性が低減することが予想された。しかし、ナノ粒子の濃度を調整することで毛細管現象で得られる利点を生かしつつ光熱変換特性を最大化する濃度を見つけることができた。関連する論文を1報発表したのは前項の通りで、本研究を共同で行った学生は国際シンポジウムでポスター賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
光電変換の実験において、光触媒の活性や光電変換デバイスの波長依存性の評価する際、これまで使っていた波長可変光源は可視光に限られていたが、年度末に近赤外光まで照射可能な課長可変光源を導入した。今後はこの新しい光源を用いることで、試料の近赤外域での活性を評価し、試料の作製方法や構造を工夫することで、可視域だけでなく近赤外域での光電変換効率も高めていく予定である。また光励起電荷が遷移金属窒化物から隣接する半導体に移動する微視的な挙動を調べるため、ケルビンフォースプローブ顕微鏡を使った測定を来年度計画している。 光熱変換に関して、今年度は微細構造としてセラミックウールを用いたが、これでは試料全体の厚さを薄くするのが難しかった。そこで、発展系としてセラミックウールの代わりに薄膜上で微細孔が多数開いたものテンプレートに使うことを検討する。こうすることで、熱の拡散を防ぎより効率よく水の蒸発を促進できると考えている。実際に試料作製と太陽光照射による水の蒸発効率を測定し始めている。
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