研究課題/領域番号 |
17H04804
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
猪股 直生 東北大学, 工学研究科, 助教 (40712823)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノマイクロセンサ / 熱センサ / MEMS |
研究実績の概要 |
本研究は,細胞内反応メカニズムの解明を通して,生化学/病理学分野での学術的イノベーションや医療医薬品分野/健康安心分野での社会的応用を目指し, 微小電気機械システム(MEMS)を軸としたマイクロ熱センサにより,通常細胞の発熱量検知が可能である熱分解能を有する熱計測システムを開発することを目的とする.また,発熱細胞として知られる褐色脂肪細胞は発熱に伴い,その形状が変化する.細胞の発熱を多角的に評価する内容も加えて検討する. 本年度はマイクロ熱センサの基礎実験と,発熱に伴う細胞の形状変化を評価する手法を検討した. 本課題におけるマイクロ熱センサとして,誘電体型センサの有用性を検討した.従来研究によれば,バルクのBST(チタン酸バリウムストロンチウム)は,キュリー点付近で誘電率が大きく変化する(6.7%/K).薄膜(~1um)のBSTをPLD(パルスレーザデポジション法)にて作製し,その誘電率の温度依存性を評価した.成膜条件のパラメータとして,温度,圧力があり,複数条件で製膜したBSTの誘電率温度依存性を計測した結果,最大で0.62%/Kとバルクのそれよりも1桁以上も小さな値となった.薄膜BSTでは想定していた性能を得られない,もしくは我々の有する成膜装置では適切な成膜条件を得られないことが示唆される. また,発熱に伴う細胞の形状変化を評価する手法としてひずみゲージに着目した.ひずみゲージは主に材料のゲージファクタ(GF)に依るところが大きい.そのため,まずマイクロナノ加工が可能である新規材料,アルミドープ酸化亜鉛(AZO)と酸化バナジウム(VOx)のGFを評価した.5%AZOは原子層蒸着法により原子層レベルで膜厚が制御できるが,GFは8.5と低かった.VOxは一般的な蒸着法で数10nm程度の膜厚制御が可能で,GFは259であった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
薄膜BSTの評価を行ったこと,その結果,薄膜BSTでは想定していた性能を得られなかった(得られる成膜条件をまだ見出すことができていない)ものの,熱センサと組み合わせて細胞の活性を多角的に評価する案を検討し,それに係る物性評価を複数の材料で行った,そして,一般的に使用されているSi(シリコン)に比べて,ナノ構造体を作製可能なAZO(アルミドープ酸化亜鉛),Siよりも優れたゲージファクタを持つVOx(酸化バナジウム)と非常にユニークな特徴を持つ材料を報告することができたため,上記の進捗状況とした.
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今後の研究の推進方策 |
(1)電気的マイクロ熱センサ:前年度,誘電率温度依存性の大きいBSTの成膜と成膜条件の最適化を行ったところ,薄膜ではバルクほどの温度特性が出ない,もしくは所有する成膜装置では所定の温度特性を得られない可能性があることがわかった.引き続き,BST成膜の条件出しを行うとともに,場合によっては代替案の検討を試みる.
(2)デバイスの作製:前年度にてマイクロ流体チップ内における試料-センサ間熱伝導の高効率化のための設計を行ったので,解析的実験的に評価,確認する.そして,伝熱効率が改善されたマイクロ流体チップに熱センサ(現状では(1)に相当するもの)を組み込んだデバイスの作製を行う.この組み込みを考慮して前年度の研究を進めるので,特に問題は生じないと予想される.
(3)デバイスの特性評価および修正:計測系を用いて,作製したデバイスの特性評価を行う.熱分解能,安定性など計測の根幹となる部分を中心に評価し,実験的に設計指針を得て,それを元にフィードバックをかけ,センサの校正や最適化を行った上で,再度デバイスを作製する.
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