最終年度である本年度は,作製したデバイスの特性評価と,デバイスを用いた細胞の温度計測を行った.デバイスの評価として,電気ノイズをもとにした温度分解能が1.1m℃であること,応答速度が0.1秒以下であること,センサが電圧には応答せず温度にのみ応答することを確認した.作製したデバイス上に細胞を培養し,偶発的にセンサ上にのった細胞の温度計測を行った.計測対象の細胞は,従来の細胞温度計測の研究によく用いられるCOS7を使用した.まず,脱共役剤であるFCCP溶液による薬液刺激を行った際の細胞の温度信号を観察した.細胞の温度はゆっくりと上昇し,最終的に1℃程度上昇したところでしばらくの間その状態を維持した.これは従来観察されている既知の発熱現象であり,作製したデバイスが細胞1つの温度信号を捉えていることを示している.また,薬液刺激を行わない状態で,周辺環境温度における細胞の温度信号の違いを比較した.室温(25℃)と37℃の環境で計測を行ったところ,後者の方が得られた温度信号の揺らぎが大きかった.これは細胞が活発に活動しているためだと考えられる.以上,単一細胞の温度・熱を高感度で計測するシステムの開発に成功した.一方,イオン液体の熱電特性を用いた温度センサに関する研究に加え,新たな原理の高感度温度計測センサの開発を目指し,反磁性体の磁気浮上を用いた温度センサの開発に取り組んだ.作製したプロトタイプを用いて原理実証を行ったとともに,ポリマー断片の示差熱量計測に成功した.
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