光学設計を最適化し定在波を利用した高効率の有機薄膜太陽電池が世界の様々な研究機関から報告されている。その光電変換層の最適膜厚は、高分子ドナー:フラーレン系で250-400 nm程度、低分子ドナー:フラーレン系で一桁小さい40-50 nm程度とされている。しかし最近応募者らは、不利な低分子ドナー系を用いても、有利な高分子ドナー系の最適値より厚い500 nm以上の膜厚において、定在波を利用するよりも高い電流密度と量子収率を得られることを再現よく実証している。 この現象は応募者の考案した共蒸発分子誘起結晶化法で作製した太陽電池でのみ確認できており、本研究の目的は、この現象をより高い光電変換効率を示す材料で実証することである。 前年度までに引き続き、フタロシアニン:フラーレン系に加えて、フタロシアニンと同様に数十年前から有機半導体分野で既知で安価な材料系や、有機薄膜太陽電池の高効率化のために合成された材料系、従来から知られる高開放端電圧材料系、近赤外吸収材料系、緑色吸収材料と励起子分裂材料などについて、薄膜成長や厚膜の素子作製を繰り返しおこなうとともに、C60薄膜の薄膜成長の検討や有機無機ハイブリッド太陽電池への適用の検討や、作製した厚膜素子の光応答速度の測定もおこなった。 特に、前年度の予定通り、新規アクセプター材料の選定をおこない、選定した材料で結晶化による性能向上の検証を行う予定であったが、選定した輸入試薬の追加実験分の納期が新型コロナ蔓延下の国際情勢に起因して繰り返し大幅に遅延して入手不可能となったため実施できなかった。そのため、最終的に計画を変更し、安価で入手性の高い有機顔料の中から新規アクセプター材料の選定をおこなったところ、有機薄膜太陽電池においてアクセプター性を明確に示す材料を複数以上確認できた。
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