研究課題/領域番号 |
17H04808
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中山 裕康 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 特任助教 (30727011)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | スピン流-電流変換 / ラシュバ・エデルシュタイン磁気抵抗効果 / スピン軌道相互作用 / スピンポンピング / 逆ラシュバ・エデルシュタイン効果 / フォトクロミック分子 |
研究実績の概要 |
本研究は,界面スピン軌道相互作用及びスピン流-電流変換の光による制御を目指すものである.申請者らの「ラシュバ・エデルシュタイン磁気抵抗効果」の発見によって,界面スピン軌道相互作用によるスピン流-電流相互変換を介した磁気抵抗効果の存在が初めて明らかとなった [H. Nakayama et al., Physical Review Letters 117, 116602 (2016).].本研究では,フォトクロミック分子/常磁性体/強磁性体積層構造とスピン流-電流変換型の磁気抵抗効果を利用することで,光によるスピン流-電流変換現象の制御手法確立とその観測を目指す. 研究開始後初年度に当たる本年度は,有機分子の自己組織化プロセスを用いて有機分子/常磁性体/強磁性体積層構造を作成し,スピンポンピング誘起逆ラシュバ・エデルシュタイン効果と,スピン流-電流変換型の磁気抵抗効果(ラシュバ・エデルシュタイン磁気抵抗効果)を系統的に調べた.その結果,スピンポンピングにより誘起される逆ラシュバ・エデルシュタイン効果による電圧信号及び,ラシュバ・エデルシュタイン磁気抵抗効果の大きさが,修飾された有機分子の極性に応じて変化することが明らかとなった.さらに,有機分子としてフォトクロミック分子を用いることで,電流とスピン流の間の変換効率を光学的に制御することも可能であることを明らかにした.以上の結果は,従来物質固有と考えられていた金属スピントロニクス素子におけるスピン流-電流変換現象を有機物修飾や光照射によって制御する道筋を拓くものであり,スピンオービトロニクスの研究を今後加速するものと期待される.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究では,有機分子/常磁性体/強磁性体複合膜を作成し,スピンポンピングとスピン流-電流変換型の磁気抵抗効果を系統的に調べた.その結果,スピンポンピングにより誘起される逆ラシュバ・エデルシュタイン効果による電圧信号及び,ラシュバ・エデルシュタイン磁気抵抗効果の大きさが,修飾された有機分子の極性に応じて増減することが明らかとなった.さらに,有機分子としてフォトクロミック分子を用いることで,電流とスピン流の間の変換効率を光学的に制御することも可能であることを明らかにした.以上の研究成果について論文を執筆し,Science Advances誌に掲載された.このような進捗状況から,本研究は順調に進展しているものと評価するに至った.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の研究により,常磁性体/強磁性体積層構造に対して有機分子を修飾することで,スピン流-電流変換の大きさを向上可能であることを明らかにした.さらに,有機分子としてフォトクロミック分子を用いることで,スピン流-電流変換の光学的制御を実現した. 今後は,初年度から継続する実験と並行して,全真空下での分子複合膜試料作成を目指す.これにより,金属超薄膜等の比較的酸化の影響を受けやすい材料系の表面に対してもフォトクロミック材料を形成させることが可能となり,より幅広い材料系での界面スピン軌道相互作用の光制御が期待できる.全真空下で作成した試料については,初年度と同様,磁気抵抗測定を用いることでスピン流-電流変換の光制御とその検出に取り組む.
|