研究課題
窒化物半導体は、InN、GaN、AlN、BNおよびそれらの混晶から成る半導体材料の総称であり、発光ダイオードや高周波トランジスタ等の構成材料として、我々の身の回りで利用されている。特に近年、パワー素子向け基板としてGaN単結晶育成技術の発達が著しく、貫通転位や積層欠陥といった構造的結晶欠陥が極めて抑制されつつある。このような高品質結晶においては、深い準位(DL)を形成する点欠陥が物性を支配するため、低濃度点欠陥を精度よく定量する計測法の確立が急務である。本研究では、全方位フォトルミネセンス(ODPL)法を用いたバンド端発光の内部量子効率(IQE)を計測する方法を提案し、GaN単結晶の定量的品質評価手法の技術深化を目指す。半導体単結晶は空気より屈折率が大きく、表面にて全反射が生じるため光取り出し効率(LEE)が低い。このうち、吸収端エネルギーEabsより高いエネルギーを持つ光子は、エスケープコーン内のものしか外部へ取り出されないのでLEEが容易に計算できる。一方、Eabsより低いエネルギーを持つ光子は自己吸収されず試料内を周回して外部へ出る可能性があることから、LEEは光子エネルギー(波長)や試料形状に強い依存性を持つので容易に推定できない(蛍光体や有機物質の量子収率計測と事情が異なる)。申請者は、エスケープコーンにLEEが支配されるPL測定と、外部量子効率(EQE)が計測できるODPL測定を組み合わせ、簡便にEQEからIQEが分かることを利用して、点欠陥の濃度と捕獲断面積とを評価する手法の確立を進める。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は主に、EQEの検出下限値を改善することと、IQEと点欠陥の濃度や捕獲断面積の関係性を理論面から明らかにすることを目標としていた。EQEの計測精度は主に、(a)光検出器の暗電流と(b)測定系の波長感度補正とによって決定される。このうち、(a)は暗電流の少ない高性能CCD光検出器を採用することで改善させる。(b)については、励起光波長帯の透過率が低く、試料の発光波長帯にて透過率の高い、いわゆる「短波長カットフィルタ」を用いる。ただし、急峻な透過率特性を持つ誘電体多層膜で構成されたフィルタは、励起光の吸収率の誤差を大きくするため不適と考えられる。したがって、波長特性の緩やかなガラスフィルタを中心に、最適なフィルタを設計・自作も含め検討した。加えて、本フィルタを装着したうえでAQE測定系全体の感度補正を行う必要があるため、要求を満たすAQE測定系を、これまで蓄積した経験を活かして新たに構築した。この結果、EQE測定限界値は従前の0.05%から0.01%以下へ大きく改善することができた。理論面については、EQEの励起光強度依存性から、点欠陥の濃度Nと捕獲係数Cと抽出する分析方法の確立を目指した。電子および正孔の拡散方程式、空間電荷を考慮するためのポアソン方程式の双方を自己無撞着に解くことで、余剰キャリアの空間分布を求める方式にて光物性シミュレータの構築に取り組み、弱励起極限における解析解を得るなど、当初の想定以上の結果を得つつある状況にある。
次年度は、前年度から引き続き測定系の精度向上と数理モデルに基づく分析技術の構築を進めながら、いよいよ、パラメータNおよびCを用いたGaN単結晶の静的・動的PL特性解析に取り組む。同一試料に対して静的PL法(連続励起光)と時間分解PL法(パルス励起光)を、同一のEQE(すなわち同一のIQE)が得られる条件で実施し、その結果を共通のパラメータNとCとで分析することを試みる。静的PL法にはHe-Cdレーザ(325 nm)を、時間分解PLにはチタンサファイアレーザの3倍高調波(266 nm)をそれぞれ励起光源に用いる。また、このようなアプローチはGaN単結晶だけでなく、深紫外領域で発光するAlNやAlGaN、窒化物半導体の量子構造における点欠陥定量分析、さらには窒化物半導体の光物性の徹底解明に繋がるものであると考えられる。また、窒化物半導体においては励起子束縛エネルギーが大きいこと、非平衡フォノンの存在など、特異な物性が存在することから、適宜これらの効果も含めた、統合的な解析にも挑戦する。
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Journal of Applied Physics
巻: 123 ページ: 161413~161413
10.1063/1.5012994
Applied Physics Letters
巻: 111 ページ: 032111~032111
10.1063/1.4995398