研究課題/領域番号 |
17H04809
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小島 一信 東北大学, 多元物質科学研究所, 准教授 (30534250)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 窒化ガリウム / 発光量子効率 / 全方位フォトルミネセンス法 |
研究実績の概要 |
本研究は、発光量子効率測定に基づいた、窒化ガリウム(GaN)結晶の点欠陥定量計測法を確立することを目標としている。紫外~可視波長領域にて動作する発光素子の構成材料として注目を集めているGaNは、パワー素子の構成材料としても魅力的である。GaNの室温における物性は、貫通転位密度が低減されつつある現在、少数キャリア捕獲中心ないしは非輻射再結合中心として振舞う「点欠陥」により支配されている状況にあると言える。特に、一立方センチメートル当たり10の16乗個を下回るような低い点欠陥濃度であっても、その影響が無視できないことが分かってきた。したがって、GaN単結晶の更なる品質向上のためには、点欠陥の濃度と種別を高感度計測できる手法の開発が急務である。本研究提案ではこの要求に応えるべく、室温環境下における発光量子効率測定に基づいた、高感度・電極フリー・非破壊・非接触を特徴とする点欠陥定量計測方法を確立する。
本年度は、主に実験結果の解析手法を確立することに主として取り組んだ。発光量子効率の励起光強度依存性から、点欠陥の濃度と捕獲係数とを抽出する分析方法を確立することを最終到達地点に設定し、まず、系が比較的取り扱いやすい弱励起条件下におけるモデル解析に注力した。電子および正孔の拡散方程式、空間電荷を考慮するためのポアソン方程式の双方を自己無撞着に解くことで、余剰キャリアの空間分布を求める方法をとり、解析解の導出についても成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究にて提案した実験手法(ODPL)の実験装置が実際に立ち上がり、GaNのみならず、酸化亜鉛(ZnO)やペロブスカイト材料など、様々な材料系において検証実験に取り組んだ。検証に用いたすべての直接遷移型半導体発光材料において、想定通り、通常のPLスペクトルとは異なる形状(ダブルピーク構造)を持つ発光スペクトルが得られ、ODPL法における「直接脱出にかかる外部量子効率」の定量法の正しさが裏打ちされたと言える。
また、本研究を推進する中で、数理モデル解析においても外部研究機関(産総研)と連携を行うことで、当初想定していた規模よりも大きく、かつユニバーサルな光物性シミュレータの開発につながりつつあることも特筆すべきと考えている。既存の半導体デバイスシミュレータは主に電子デバイスのシミュレータを指向したものであるが、本研究で得られた絶対効率や絶対吸収量といった光学的な絶対測定値を再現するように、光物性を三次元的にシミュレートできるようになれば、基礎研究から応用研究まで、幅広く活用が見込める。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで得られた成果、すなわち高精度な効率評価法と数値解析技術とを駆使して、GaNのより深い物性評価を推進しつつ、他の材料系との比較についても推し進めていきたいと考えている。また、当初予定であった試料の冷却について試みる予定である。ODPL法においては、試料を積分球内に設置することで、その発光効率を評価できるようにしている。このコンセプトを継承しつつ、試料を液体ヘリウム程度の極低温まで冷却できるような工夫を施した、新たな実験装置の構築に取り組む。これによって、極低温から室温までの発光スペクトルや効率の変化を直接観測できるようになり、GaNの光物性理解に関して、より一層の進展を目指す。
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