高度な熱管理社会の到来に備えるためにナノスケールにおける熱や温度を自在に時空間制御できる材料・デバイスの開発を目指してきた。用いた物質はマグノンによる異方的高熱伝導性と電気的制御能を持つLa-Ca-Cu-O系物質(以下、LCCOと略記)である。過年度はイオン液体(DEME-TSFI)との多層構造を作製し、電圧印加によってLCCO多結晶薄膜の熱コンダクタンスが増大することと、同時にマグノン由来のラマン散乱ピークが減少することを確認した。本年度はその機構解明のために印加電圧依存性と電流・電圧特性を調査した。その結果、当初期待した電界効果による正孔ドープ量のみでは熱抵抗とラマン散乱の変化を誘起するには不十分であることがわかった。また、約1.5V以上ののLCCO側への正電圧印加がマグノンの変化に必要であることがわかり、この閾値はLCCOなどのスピン鎖・梯子系物質特有の層構造における層間の正孔遷移エネルギーに相当することから、電圧印加によってマグノン熱伝導面に遷移した正孔がマグノンを破壊し、同時に多結晶LCCO薄膜内に浸透したイオン液体によって薄膜全体の熱伝導が制御されると推察した。本モデルの検証のために単結晶やナノシートを用いた実験を進めている。
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